茂木 さすがだなと思ったんですが、それは東さんが言った「忘れる」(編集部注/平等主義的で、他人の視線を気にして、熱しやすく冷めやすく、誰かを一斉に叩いて、その人が消えたら嘘のように忘れるという日本の民主主義の歪みを、東は指摘している)ということにも関係する気がします。例えば大地震が起きたら中国から経済的支援を受けざるをえないかもしれないのだから、対中強硬策と言ってもほどほどにしようね、というのも、一つの「忘れない」ということですよね。

東 それは、鈴木宗男氏が言うように、ロシアはずっとあの位置にあって、基本的に付き合っていかなければならない国なのだからウクライナに全振りしている場合じゃないという話にもつながりますね。僕は鈴木氏の戦争理解は間違っていると思いますが、言いたいことはわかる。短期的な善悪とは別に、長期的なオプションもしたたかに抱えておかなくてはいけない。

茂木 本当にそうだよね。

東 でも、日本はそういうのこそ苦手な国なんですよ。

書影『日本の歪み』(講談社現代新書)『日本の歪み』(講談社現代新書)
養老孟司・茂木健一郎・東 浩紀 著

茂木 実際には、日本はアメリカのような軍事力があるわけでもないし、もはや経済も弱いし、条件としてはあまり偉そうなことは言えない国なんですよね。絶対的な何かをもっているというより、どこともうまくやっていかないと生存が難しい。

 話は少しずれますが、僕が出会ったときには養老先生は東大医学部の現役の先生でしたが、養老先生が偉そうだったことが1度もないんですよね。イデオロギーで生きていないからなんでしょうか。例えばいま、人工知能の研究者とか、なんでそこまで偉そうなのっていう人が多いですよ。とりわけ、アメリカで人工知能やっている人たちって、俺たちが世界をつくる、みたいな勢いがある。サム・アルトマンとか、本当のトップは案外謙虚なのですが。養老先生は、なぜ謙虚なのか?

養老 知らないよ(笑)。別に何も変わりないですよ。