長年、優勝争いから遠ざかっている中日ドラゴンズ。しかし、入場者数はむしろ増えている。熱心なファンが特徴的な中日だが、サカナクションの山口一郎もそのひとりだ。球場に広告まで掲げてしまった、彼のドラゴンズ愛に迫る。※本稿は、喜瀬雅則著『中日ドラゴンズが優勝できなくても愛される理由』(光文社新書)を一部抜粋・編集したものです。
日本トップクラスのロックバンドが
ナゴヤ球場に広告を出している
2017年7月末に産経新聞社を退社した私は、福岡を拠点とする西日本新聞と業務委託契約を結んだ。博多からよりも神戸に住む私の方が移動距離は短く、経費節減にも繋がることから、ソフトバンクのファームが遠征する「ナゴヤ球場」への取材が増えた。
ネット裏のスタンド席から試合を見ることになるのだが、右斜め前方に目を移すと、何とも野球場には似つかわしくない?太い、大きな文字が飛び込んでくる。
「サカナクション」
ライトの定位置後方に位置するブルーのフェンスに、白で鮮やかに染め抜かれている。それほど音楽に詳しくない方でも、耳にしたことのあるバンド名だろう。
2005年に活動を開始した5人組のロックバンドは、2007年にメジャーデビュー。2013年の紅白歌合戦に初出場し、2016年には「第39回日本アカデミー賞」の音楽賞で最優秀賞を受賞。プロフィールの一部をご紹介しただけで、即座にそのすごさが分かる。
その「サカナクション」の楽曲のほとんどを制作し、ボーカル兼ギターを担当する山口一郎は、熱烈なドラゴンズファンである。
北海道・小樽で生まれ育った山口だが、父親が岐阜県下呂市出身。「愛三岐」と呼ばれる東海3県のDNAをしっかりと受け継いだせいなのか「僕、完全にドラゴンズファンです」。
音楽活動やライブツアーなどで全国を転々としながらも、プロ野球のシーズン中は常にドラゴンズの試合をネット中継などでチェック。楽曲制作中にも、休憩中の気分転換にはドラゴンズのファームの試合中継を視聴しているというほどのマニアぶりだ。
北海道で生まれようとも、東京で暮らそうとも、それこそ不変の“ドラゴンズ愛”は、とうとう?ナゴヤ球場の右翼フェンスに自費で広告を出してしまうところへ行き着いた。
そこで、筋金入りの竜党にこの本の“開幕”を飾ってもらいたいと思い立った。球団広報の石黒哲男(現NPO法人ドラゴンズベースボールアカデミー事務局長)に相談してみたところ、石黒が関係者との橋渡しをしてくれたことで、なんと山口本人に直接話を聞かせてもらえることになった。