老後は施設に入るべき――。そんな言説が常識と化しているが、地域によっては在宅ケアのサービスなどがあり、最期まで家で暮らすことも可能だ。そのような認識が広がらない理由を上野千鶴子と高口光子(正しくははしご高)が考える。本稿は上野千鶴子・高口光子著『「おひとりさまの老後」が危ない! 介護の転換期に立ち向かう』(集英社新書)の一部を抜粋・編集したものです。
親が入っている施設に入りたい?
YESと即答する人は少ない
上野 措置(制度)時代(かつて、行政が申請を受けて必要と判断すれば、福祉サービスの提供先を決めていたこと)はうば捨てのイメージが強かったから、「親を施設に預けています」とは公然とは口にできませんでした。
高口 当時は「病院に入っています」って言うほうが、家族は気が楽だったですよね。それが社会的入院を助長し、最初に私が働いた老人病院などが社会問題化したわけです。
上野 それが今、介護保険施行から23年が経過して、「親を施設に入れています」と堂々と言えるようになりました。つまり施設は誰のためのサービスかというと、家族のためのサービスになっているということ。あなたはいつも「利用者・家族」ってまとめて言ってきましたよね。私が、あなたに「利用者って誰のこと?」ってしつこく聞いてきた理由はこれです。
私は、「うちの親は施設に入っています」って言う人に、「親御さんが今、入っていらっしゃる施設に、あなたも将来入りたいと思われますか?」って聞きますが、「はい」って即答する人はいません。
独居の在宅ケアが成り立つと
現役世代は親から離れて生活できる
高口 上野さんが言っているのは、在宅ひとり死というのはありうると、その人の家族も含め、一般の人にまず知ってほしいということですよね。それをもう少し身近な具体例として示せたら、いいと思う。あなたの地域にはこのサービスがあるから、最期まで一人で暮らせますって具体的事例をもって伝える。
上野 そうなの。在宅ケアと家族ケアは違います。私は、お年寄りが「家に帰りたい」というのは、「家族と一緒に暮らしたい」ということと同じではないと言い続けてきました。誰もいないおうちでも、年寄りはおうちにいるのが好き。ところが、家族も地域も、年寄りを一人で家に置いておけないと思っています。
私は若い人に話すとき、「独居の在宅ケアが成り立つということは、あなたたちのためになるんだよ。年老いた親を家に一人で置いておいてかまわないということは、あなたが安心して離れて生活できるということだよ」と言っています。
それなのに、ケアマネが「在宅の限界」と言って脅して、施設入居を勧めます。施設入居が「上がり」という考え方は本当にやめてほしい。