それに、マーケットに競争がなきゃいけないのに、競争がないから、質の悪い施設が生き延びているわけでしょう。

高口 そうですね。私の立ち上げた静岡の老健が一定の評価を得られるのは、周りの施設にいまだに身体拘束や薬漬けで最後は精神科に送るみたいなことが蔓延(まんえん)しているからなんですよね。結局、介護が社会一般に通じるケアのスタンダードをいつまでも持たないことが問題なんですよね。

デンマークの在宅ヘルパーは
高卒2年目で給料48万円

上野 そういう質の悪い施設が淘汰されないでしょう。介護職がもっと内部告発をしてくれればいいのにって思う。日本の介護のマンパワーへの予算の投入は、福祉先進国に比べると圧倒的な差があります。

 たとえば、デンマークの在宅ヘルパーの給料は1カ月、高卒2年目で48万。ただし、税率が50%ぐらいですから手取りは日本とあまり変わりませんが、福祉が充実しているので貯金の必要がありません。

高口 ということは、手取りは24万ぐらいか。

上野 身分はコミュニティーワーカー、つまり、自治体雇用の公務員ですね。日本の場合は介護保険を作った時期に、公務員削減が至上命令でしたから、その選択肢はありえませんでした。介護保険は福祉のネオリベラリズム(新自由主義)改革の一環だったんです。

高口 今、国は原則的に地域包括ケアシステムとか、在宅福祉を進めている。施設よりも在宅のほうが社会保障給付費が少なくて済むと言われているから。制度もできるだけ在宅のほうに向くように介護報酬も見直されていく。なのに、いまだに最後は施設という固定観念が根強いのは、どこに原因があるんですかね。

上野 原因は二つあると思います。一つは先ほども言いましたが、選択肢が増えたことをケアマネも利用者も知らないということです。ケアマネが「そろそろ施設へ」と誘導したりします。

 それともう一つは、地域の包摂機能よりは排除機能のほうがはるかに強く働くということです。「家族がいながらなんでほっとくんだ、年寄り一人で置いといていいのか」とか、地域住民からクレームが来るのに抵抗できないからです。

高口 ああ、たしかに。「アパートに年寄り一人で暮らさせるな」とか、「火を出したらどうするんだ」とかね。おひとりさまの老後も、持ち家でなきゃ無理ですね。