高口 認知症になったり体が不自由になったら施設入居、って世間が思っているから、いい施設選びについて教えてほしいという取材が、最近増えました。ある雑誌の若い記者に、あなたも施設に入りたい? と聞くと、「認知症や寝たきりになったら入らないといけないでしょう。それ以外に何かあるんですか」って言うんですね。

 一般の人が、将来、認知症が進んだら、施設に入ってロボットに介護されるんだと平然と言うけど、どういうイメージなんだろう。介護施設の実態を知らない、いや、知ろうとしないのか。

上野 たぶん、両方でしょう。若い人たちに想像できるとは思えない。特にテクノロジー系の人たちが、「これからはAI介護です」とかって言うのを聞くと、バカヤローと思う。AI保育やるって誰か言う? 言わないよね。子どもをロボットで保育するって言ったら、親は怒りますよ。

 人間が育つのは人間の間でだけという一番基本的なところは誰でもわかりますから、保育についてはAI化なんて誰一人言わないのに、年寄りについてはこんなに簡単に言うのは、つまり、年寄りってこの程度でいいんだと思っているから。年寄りには人格がないとすら思っている。だから、最後は施設でいいと思っているのでしょう。

身体拘束や薬漬け……
質の悪い介護がなくならない理由

高口 「どのタイミングで施設入居を考えたらいいですか?」と、一般の人に聞かれることがあります。あなたがその家にいたいと思えば、家にいればいいし、家にいるのが嫌ならば施設に入ればいいと答えています。しかし、このような答えでは納得されないようで、施設入居の判断に自分の意思を反映できるとは思えないようです。

 認知症になったら周りに迷惑をかけたくないので施設入居が当たり前、という思い込みがありますよね。テレビの解説者から、「誰だって認知症になったら入らなきゃいけないでしょう、もうそれしか選択肢ないですよね」って言われたこともあります。

上野 問題は施設入居以外の選択肢が知られていないことです。選択肢が増えていることを、利用者だけでなく介護現場の人も知らない。これは、マスコミが罪深いと思います。認知症になったらもう終わりみたいに、さんざん脅かしてきましたからね。