米倉 孫さんは起業家ですから、その時々で大きな決断をしています。額も大きかったし、はたからみれば無謀に見えたでしょう。ボーダフォン日本法人やスプリント(2020年にTモバイルと合併)、さらにはアーム社の買収もそうですが、お金を突っ込み過ぎじゃないかと。
既存の概念とは違う起業家的行動が、平凡な人間にしてみれば異常な行動に映りますし、リスクがとても高く見える。それで、つい「危ない!」と口を挟みたくなってしまうのでしょうね。
井上 最近は、バッシングの中身も変わってきたと思います。ただ叩くだけではなく、孫さんの言っていることは意外と当たっているぞということで、潮目が少しずつ変わってきた感じはします。
米倉 そうですね。ただ、やはり見たことのないものに対する恐怖心は、まだ世間に残っていると思います。
僕は『クール・ランニング』(1993年)という映画が好きです。ジャマイカの短距離選手たちが、夏季オリンピックの代表選考会で落選して出場機会を失い、ひょんなことからボブスレー選手となり、冬季オリンピックを席巻するというストーリーです。その映画でも、主人公たちが「夏のスポーツのやつらが何にも分かっていないのに」といったバッシングを受ける訳です。
そのとき、主人公チームの1人がバッシングに対して「人間は自分と違う人間を怖がっているからだ」といったセリフを言っていました。要するに、バッシングは違うものに対する恐怖心もあるし、それ以上に自分を守るための術なのかなと思っています。
孫正義から学ぶべき3つのキーワード
「時代」「努力」「報徳」
井上 たしかに、孫さんは他人とは違う人間であることを誇りに思っている部分もありますから。1兆円、2兆円を動かす真似をするのは難しいとしても、経営学という観点で孫さんから何か学ぶべきことはありますか?