カブトムシの研究を15年ほど続けてきた著者は、実験の中で予想通りの結果が出たときは何とも言えない達成感があると語る。実際、予想通り、一緒に住む幼虫たちがサナギになるタイミングは同じになる事実を掴んだ時の心境とは。本稿は、小島渉『カブトムシの謎をとく』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
幼虫が同時にサナギになるナゾの生態
調べて浮かび上がった驚きの仕組み
冬眠に入ると、幼虫の体重は少しずつ減少します。冬眠が明けると、その分を取り戻すように、幼虫は再び餌を食べ始めます。冬眠が明けて40日ほど経過すると餌をあまり食べなくなり、サナギになる準備を始めます。
では、土の中で暮らす幼虫たちは、どのようにしてサナギになるタイミングを決めているのでしょうか。体内時計のようなものが備わっているのでしょうか。あるいは温度が関係しているのでしょうか。
よく調べてみると、ほかの昆虫ではほとんど知られていないような驚くべき仕組みが存在していることが明らかになりました。
この研究を始めたきっかけは、カブトムシを飼育している中で、不思議な現象に気付いたことです。同じ容器で何匹かの幼虫を一緒に飼っていると、幼虫たちはほとんど同じタイミングでサナギになっていたのです。
野外でも同じことが起こっているのか気になったので、初夏に腐葉土や堆肥を掘り返して調べてみましたが、一つの餌場の中に住む幼虫の多くは、数日というほんの短い間にサナギになることが分かりました。
実験で同時にサナギになる事実が明らかに
幼虫が密かにコミュニケーション?
もちろん、同じ場所で育った幼虫たちは、似たような温度や餌条件を経験してきたはずなので、発育状態が揃うのは当たり前かもしれません。
しかし、私にはそれだけで説明できるとは思えませんでした。幼虫の期間は10カ月近くあります。いくら同じ条件で育ったからと言って、これほどぴったりと同じタイミングで皆がサナギになるでしょうか?
もしかすると、幼虫たちはコミュニケーションをとり、示し合わせて一斉にサナギになるのかもしれないと思いました。しかし、昆虫でそんな話は聞いたことがありません。そうだとしたら大発見です。確かめることにしました。
まず、幼虫が冬眠から覚めるであろう春先に、野外の腐葉土置き場からたくさんの幼虫を採集し、実験室に持ち帰りました。そして、飼育ケースに2個体ずつ幼虫を入れ、毎日観察して、それぞれの幼虫がサナギになった日を記録しました。