すると、同じ容器に入った2個体の幼虫は見事にほぼ同じ日にサナギになったのです。一方、違う飼育ケースに入れた幼虫どうしを比べると、サナギになるタイミングはバラバラで、平均すると1週間近くずれていました。

 つまり、互いに接触がなければ、同じ生息場所に由来する幼虫であっても、サナギになるタイミングは完全には一致しません。この結果から、幼虫どうしが何らかの相互作用をして、サナギになるタイミングを合わせている可能性が強まりました。最初の直感は正しかったのです。

冷蔵庫で幼虫を冷やして発育調整
タイミングを合わせる3つの可能性とは

 では、幼虫たちはどのようにしてサナギになるタイミングを合わせるのでしょうか。3つの可能性が考えられます。

 1つ目は、発育の早い幼虫が、自分より発育の遅い個体がいるときにサナギになるタイミングを遅らせるというものです。

 2つ目は、1つ目とは反対に、発育の遅い個体が、自分より発育の早い個体につられて、本来のスケジュールよりも早くサナギになるというものです。

 3つ目は、これらの2つが同時にはたらくというものです。3つの仮説を区別するためには、発育状態の違う2個体を一緒に飼育し、それぞれの幼虫がサナギになったタイミングを調べる必要があります。

 カブトムシはこの実験をするうえでとても都合の良い性質を持っており、冬に採ってきた幼虫を冷蔵庫で冷やしておくことで、発育の進行を止めることができるのです。

 そのため、冷蔵庫から取り出すタイミングを調整することで、異なる発育状態の幼虫を同時に用意できます。

 冬の間に野外から幼虫をたくさん採集し、ランダムに2つのグループにわけ、冷蔵庫内で保管しました。片方のグループをある日一斉に冷蔵庫から取り出し、その18日後にもう1つのグループを冷蔵庫から取り出しました。

 つまり、早く冷蔵庫から取り出したほうのグループは、もう片方に比べて平均約18日分発育が進んでいるはずです(ただし、実際には冷蔵庫の中でもわずかに発育が進むため、発育の差は18日よりやや短くなります)。