渋谷周辺に多数のカブトムシが…都市でも生き残る「驚きの適応力」とは?写真はイメージです Photo:PIXTA

日本人にとってもっともメジャーな昆虫ともいえるカブトムシ。しかし、研究者が少ないために謎は今も多いという。野山にしか生息していないと思われがちだが、実は都会でも見つかるカブトムシの不思議な生態に迫った。本稿は、小島渉『カブトムシの謎をとく』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

田畑と雑木林が入り混じる里山は
カブトムシにとって最高の餌場

 カブトムシが好む最も一般的な環境は、里山とよばれる、田畑と雑木林がモザイク状に入り混じった環境です。里山がカブトムシにとって住みやすい環境と言われるのは、幼虫の生息場所と成虫の生息場所がセットになって存在しているためです。

 たとえば、里山では農業のための肥料として、堆肥や腐葉土が作られ、そこがカブトムシの幼虫にとって重要な餌場になります。カブトムシの幼虫がうまく育つためには、落ち葉が発酵し、十分に分解されている必要があります。

 しかし、自然の力だけで落ち葉がうまく発酵することはめったにありません。また、大食漢の幼虫を支えるほど落ち葉が深く堆積することもほとんどありません。人が落ち葉を集め、そこに牛糞や米ぬかなどの有機物を混ぜ込むことで、カブトムシが利用しやすい餌場が作り出されます。

縄文時代に朝鮮半島から流入したクヌギ
驚異的な自己治癒力が重用された理由

 また、成虫のおもな餌はクヌギの樹液です。クヌギは、建築用資材、薪燃料、シイタケ栽培用のほだ木、あるいは刈敷(田植え前の水田に敷くための肥料)として欠かせない植物で、農業活動と切っても切り離せない関係にありました。

 クヌギはもともと日本にあったわけではなく、縄文時代から弥生時代に、稲作や農耕の文化とともに、渡来人によって朝鮮半島から持ち込まれました。

 人は古くから自分たちが利用しやすいように、生活圏内にクヌギの木を植えてきました。現在でも、クヌギの林は山奥ではなく人里に多く見られるのはそのためです。

 ところで、すべてのクヌギの木に樹液場があるわけではありません。香川県で行われた研究によると、樹液場を持つクヌギの木は、クヌギ全体のわずか5%に過ぎませんでした。

 クヌギは優れた自己治癒力を持っています。たとえば人がクヌギの木にドリルで深く穴をあけると、しばらくの間は樹液が染み出し、昆虫が集まりますが、数週間経たつと植物の力によって埋められてゆき、翌年にはどこに穴をあけたかも分からなくなってしまいます。