『ざんねんないきもの辞典』『せつない動物図鑑』など、ユニークなコンセプトの生き物図鑑がブームとなっている。今年は何と、既にこの世には存在しない生き物たちを取り上げた『わけあって絶滅しました。』が、7月に発売されるや30万部のベストセラーとなった。読者は絶滅から一体何を感じ取っているのか?本書の監修を務めた動物学者の今泉忠明氏にお話を伺うと、生き物を知ることと子どもの成長の意外な関係が明らかになってきた。(文/山本奈緒子)

『わけあって絶滅しました。』の発行部数が30万部を突破

――『わけあって絶滅しました。』が発売されたのは今年の7月。「食事がのろくて絶滅」、「筋肉ムキムキで絶滅」など、軽快で分かりやすい文体もウケて、子どもを中心に好調に売上げを伸ばしています。見たことがないだけに親しみを抱きにくい絶滅した生き物。それを紹介した本が、今なぜこんなにも支持されているのでしょう?

今泉先生:あえて「教訓」めいたことを入れないようにしたからかもしれません。

 この本には60種類の“わけあって絶滅した生き物”と、10種類の“絶滅しそうでしなかった生き物”の、合計70種類が載っています。子どもは何に興味を持つか分かりませんから、できるだけたくさんの生き物を挙げました。

 全ての生き物に興味を持たなくていい、何か一つでもいいので、「その生き物がなぜ滅んだのか」をより深く調べてみたり、「森を大事にしよう」「何でも取り過ぎはいけない」などと自分なりに考えてもらえたらと思っています。

――今では姿を見ることのできない生き物たちについて、自分なりに考えてみる。それは絶滅生物ならではの面白さかもしれませんね。

今泉先生:はい。本書に紹介した生き物で、絶滅理由がハッキリしているのはリョコウバトぐらいです。これは人間が獲りすぎたために絶滅したのですが、実際に捕獲したリョコウバトを塩漬けにして運んでいたときの伝票が残っているのです。それ以外は、発見された化石や地球の環境変化から、おそらくこういう原因で滅んだのだろうと推測しているだけ。

 だからといってどの説も嘘というわけではない、いくつも説があるということなんです。

最近の子どもには「自由な考え方」が育ってきている

――それはこの本を作るうえで込めたかったメッセージでもあるんですよね?

今泉先生:私の持論は、科学というのは自由な学問なんだ、というものなんです。日本人はややもすると何でも一つの正解を求めたがりますが、それをすると間違った方向に突っ走る危険性があります。

 ガリレオは地球が太陽の周りを回っている地動説を唱えましたが、当時は99.9%の人が「何を言っているんだ、太陽が地球の周りを回っているに決まっているじゃないか!」と猛反発し、ガリレオは牢獄に入れられてそこで死んでしまいました。でも後に、彼が正しかったことが証明されましたよね。

 以来、科学界では、0.01%の説を潰してはいけないという価値観が確立されたのです。

――私たちの身近なところでも、ガリレオの例のように常識が覆されたエピソードはありますか?

今泉先生:皆さん、ニホンザルといえばボスザルがいて群れを従えている、というイメージがあると思います。でも野生のサルにボスザルはいないのです。あれは動物園でだけ起こる現象。鯉も、狭い池で飼うと一匹だけ図抜けて大きい個体が生まれ、それを取り除くとまた別の大きい個体が生まれるのですよ。面白いですよね。このボスザルはいないという説も、唱えられた当初は「あり得ない!」と否定され、なかなか日の目を見ませんでした。

 この本で紹介した絶滅生物も、見方を変えれば全く別の絶滅理由が出てくるかもしれません。でも、それでいいんです。子ども同士で議論してほしい。そうして学問は進歩するものですから。このような本が売れるようになったのも、もしかしたらそういった自由な考え方が、子どもたちには育ってきているからなのかもしれません。