そして、発育の早いグループ、発育の遅いグループをそれぞれ単独で飼育したもの、発育の早いグループと発育の遅いグループのそれぞれから1個体ずつを同じ容器で飼育したものを作り、それぞれの個体がサナギになるタイミングを調べました。

発育速度を調整する能力を発見も
アマチュアの世界では有名な常識

 幼虫の頭に油性ペンで、グループごとに異なるマークをつけておき、実験後に脱皮殻を調べることで、同じ容器に2匹幼虫がいる場合も、個体の識別が可能になりました。

 この実験の結果、発育状況の異なる2個体を1つの容器で育てた場合、発育が進んだほうの幼虫は、単独で育てられたときよりも遅くサナギになっていました。

 同時に、発育の遅れたほうの幼虫は、単独の個体よりも、発育の進んだ個体と一緒に育てられた場合に、より早くサナギになっていました。

 その結果、本来は2個体の間に約18日分の発育の差があったにもかかわらず、同じ容器に入れられた2個体間のサナギ化日のずれは、わずか数日へと短縮されました。

 つまり、発育の進んだ個体と発育の遅れた個体のそれぞれが互いに“歩み寄る”ことで、サナギになるタイミングを同期させていたのです。周囲にいる他個体の発育状態をどのように査定しているかは分かっていませんが、他個体と同調してサナギになることで、成虫になるタイミングを逃さないようにしているのかもしれません。

書影『カブトムシの謎をとく』『カブトムシの謎をとく』(筑摩書房)
小島 渉 著

 インターネットで検索していてあとから分かったことですが、多くの愛好家たちはカブトムシの“同調サナギ化現象”に私が気付くよりずっと前から気付いていたようなのです。

 彼らは、飼育している虫をうまく交配させるために、オスとメスが羽化する時期をそろえる必要があります。そのために、オスとメスの幼虫を同じ容器で飼育するそうで、ブリーダーの間では比較的有名なテクニックらしいです。

 また、私は未確認ですが、この現象は海外の大型のカブトムシの仲間でも見られるとのことです。

 今回の私の研究は、愛好家の間の通説を、科学的に検証したことになります。このように、アマチュアの間の常識が、生態学的に見るとじつは面白い現象だった、というようなことが、身近な生き物の研究では時々起こります。