診察の中で、「自分は発達障害ではないか」と感じている患者さんから、知能検査を受けたいと依頼されることがよくあります。知能指数(IQ)を測るものですが、知能検査だけで診断できる病気はありません。知能検査を含む心理検査は、診断の補助になりますが、それだけで診断できるわけではないのです。

 診察で得られる情報は患者さん本人の訴えによるところも大きく、判断材料が乏しいこともあります。そのときは、待合室での様子や、診察に付き添う人の反応などから、その人が普段どのような生活をしているのかを推測します。

 心の病気は血液検査の結果で診断できる病気と異なり、その人に何が起きているのかを探偵のように推理する必要があるのです。

 基本的に医学は欠陥を探す学問なので、病院や診療所に行けばなんらかの病名がつきます。

 これは保険診療のシステムとも関係しています。健康診断の費用が保険の適用外であるのは、病気の人ではなく、健康な人が受けるサービスだからです。健康診断で病気の疑いが見つかった場合は、病院でより精密な検査を受けます。その際は保険診療となり、保険診療ではなんらかの病名をつけて診療報酬を請求する必要があるのです。

 医師は診断するのが仕事なので、たとえ血液検査やレントゲンで異常が見つからなかったとしても「糖尿病予備軍」「変形性関節症の疑い」などと、なんらかの診断をくだします。

 誰でも糖尿病や変形性ひざ関節症になる可能性はあるため、自覚症状がなければ様子を見ていればよいのですが、不安になりやすい人は医者の一言一句に一喜一憂してしまいます。

不安になりやすい体質
不安感受性という尺度

 診断をするときは、必ずその症状がいつから生じたのかを尋ねます。なかには幼いときから、ずっと同じ傾向を持っている場合があるからです。

 不安になりやすい体質・状態を「不安感受性が高い」と表現します。これはアレルギー反応と似ています。ほかの人にとっては反応が出ないような微量のアレルゲン(アレルギーを引き起こす抗原)であっても、そのアレルゲンに対する感受性が高い人はアレルギー反応が出ます。カップの水が溢れるように、一度反応が出てしまうと止まりません。