なぜ部下は「いい返事」で上司をぬか喜びさせるのか?
そう語るのは、これまで4000社以上の導入実績がある組織コンサルタントである株式会社識学の代表取締役社長・安藤広大氏だ。「会社員人生が変わった」「もう誰も言ってくれないことがここに書いてある」と話題の著書『リーダーの仮面』では、メンバーの模範として働きつつ、部下の育成や業務管理などで悩むリーダーたちに「判断軸」を授けている。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、注目のマネジメントスキルを解説する。(構成/種岡 健)

なぜ部下は「いい返事」で上司をぬか喜びさせるのか?Photo: Adobe Stock

「返事」に惑わされるな

 上司や管理職から部下に向かって、

「あの件って、どうなった?」

 という声がけをしていませんか。

 これは、部下のプロセスにフォーカスしてしまっている失敗例なのです。

 たとえば、上司が部下に、「あの件はどうなっている?」「うまくいっている?」と聞いたとします。
 すると、部下は、本当に順調であれば、「はい、順調です」と答えるでしょう。
 しかし、正直に答えないことも多くあります。

「はい、いい返事をもらっていて、契約に結びつけられそうです(本当はあまりいい反応じゃなかったけど……)」

 このように、つい期待させる返事をしてしまうのです。
 そう言ってしまった手前、埋め合わせを頑張り、ウソをウソでなくする部下も中にはいるでしょう。
 しかし、そんな例はごく少数ですね。

「大丈夫じゃない」と言いにくい空気

上司「うまくいっている?」
部下「はい、順調です(本当は何も進んでいない……)」
上司「よし、期待していますね!」

 こういったやりとりは、事実上、何も成果が生まれていない状態での会話です
 もし、その後、契約が取れないまま期限が来たとしましょう。

部下「契約は取れませんでした。直前に気が変わってしまったようです」

 などと、言い訳を報告したり、誤魔化したりするようになってしまいます
 それを受けてさらに残念なのが、次のような勘違いです。

上司「そうだったんですね。でも、その頑張りだけは評価します!」

 と、誤解したままプロセスを評価してしまうことです。

 このように、結果として契約が取れていないにもかかわらず、途中でヘタに声がけをして「いい返事」をもらったせいで、部下を評価せざるを得なくなります
 まさに、意識のズレが生み出した悲劇です。
 そうした事態を避けるためにも、「言い訳」をなくすコミュニケーションをし、プロセスを評価しないことが必要なのです

 いい返事は、無意識のうちにクセになります

 そこでやるべきなのは、「頑張ります!」などの感想を聞くのではなく、「数値化した事実」だけを確認することです
 若い人は、日報と日記の区別がついていません。
 部下が日報に「感想」を書いてきたときは、日記ではないことを伝えて指導しましょう

(本稿は、『リーダーの仮面』より一部を抜粋・編集したものです)

安藤広大(あんどう・こうだい)
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモ、ジェイコムホールディングス株式会社(現:ライク株式会社)を経て、ジェイコム株式会社にて取締役営業副本部長を歴任。2013年、「識学」という考え方に出会い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11ヵ月でマザーズ上場を果たす。2024年4月現在、約4000社の導入実績がある。主な著書に『リーダーの仮面』『数値化の鬼』『とにかく仕組み化』のシリーズ(いずれもダイヤモンド社)がある。