業務負担の軽減を望む人にはありがたいかもしれないが、キャリア志向の強い女性からすれば出世の芽が摘まれてしまう。マミートラック※1が女性社員の昇進・昇格を阻んでいた。

※1マミートラック…育児をしながら働く女性従業員が、自分の意思とは関係なく出世コースから外れてしまう状態

 第1子が生まれたときは、コロナ禍の只中。当時は、A社も在宅勤務制度を取り入れていたため、なんとか仕事と育児を両立することができた。

 育休中、同僚に会社の様子を聞いて、在宅勤務がほとんど行われておらず、出社回帰が始まっていたことがわかった。それに伴って、タバコ部屋文化や飲みニケーションによる「男性中心のクローズドな社内コミュニケーション」も増えていたという。「毎日不安でした」と当時の心境を振り返る。

 典子さんは育休が明ける2カ月前の23年2月から転職活動を始めた。子育てと仕事の両立ができて、自分自身のキャリアを築くことができる場所を探し、条件に合うスタートアップのIT企業への就職を決めた。

「名刺の力が強い前職を去る不安より、子育てと仕事の両立に対する不安が勝りました」

 典子さんは夫と会社に相談して、24年度から時短勤務ではなくフルタイム勤務で仕事をしている。前職では考えられなかった働き方やキャリア形成について語る典子さんの表情は、とても晴れやかだった。

“目標未達”で昇進する残業社員
「ここでキャリアは築けない」

 有名な大手IT企業B社に新卒で入社した石川紗希さん(仮名、29歳)は、24年6月まで育休を取得して、そのまま復帰することなく会社を辞めることになっている。

 転職を考えた時期について尋ねると「妊娠する前から考えていた」と答えた。この会社に在籍していたら、仕事と子育ての両立は難しいと考えていたという。

 仕事はハードで、訪問や会食が多い体育会系の社風だった。紗希さんは個人的にそうした風土が嫌いなわけではない。同僚は人柄が良く人間関係に不満もなかった。しかし、子育てを想定するなら話は違う。

 B社はフル出社が必須。在宅勤務を希望する紗希さんには受け入れられなかった。以前はB社にも在宅勤務の制度が存在していたが、在宅勤務中の社員のサボりが発覚したことをきっかけに社長が激怒。リモートワークは全社的に禁止となった。

 仕事への熱量が高く“バリバリ”働いて残業する人は多かった。管理職は男性ばかりで、妻が専業主婦やパートの人が多かった。事務系には女性管理職がいたが、未婚や子なしの人ばかりだった。

 目標未達でも昇進する社員は、評価者と仲良くしたり、顔を広くして自分の名前が挙がりやすい状態を作ったりしている。成果ではないところで、評価が下されているように感じられた。結果として、会社に長時間いる人間が評価されやすい環境だった。「ここでは自分のキャリアを築けない」と紗希さんは感じたという。