実は、紗希さんが在籍したB社の同じ営業部には、育休から復帰した女性社員が1人だけいた。3つ年上でよくランチを一緒に食べに行く仲だった。紗希さんから見てその人は「かわいそう」だったという。

「子育て中ということもあって、毎日定時ダッシュで帰られてました。その様子を見た周りの人たちが『定時ダッシュしているようじゃ上には上がれないね』という会話をしているのを聞かされていました」

 彼女が自分の未来に見えた。昇格したいという気持ちを強く持っている人だったが、程なく会社を辞めてしまった。フルリモートでの勤務が認められている会社に転職したそうだ。

 紗希さんもそうした状況にただ手をこまねていていたわけではない。産休に入る前に、所属する営業の部署に他の営業社員のアシスタント業務ができないかと提案したという。それまで存在しなかったポジションでB社で働き続けるために紗希さんから会社側に提案したものだ。

 会社はアシスタント業務自体の意義には賛同してくれたものの、在宅で働くことは認めてくれなかった。出社してアシスタント業務をするなら出社してアシスタント業務をするなら育児との両立には何の助けにもならない。所属部署の上長は「会社のルールだから仕方ない」と制度の変更には消極的だった。紗希さんが会社に持ちかけた復帰交渉は事実上、決裂した。

「もしアシスタント業務が認められていたとしても、周囲がバリバリ働いている中で自分が同じように働けない自分に負い目を感じていたかも」と紗希さんは自分自身を納得させるしかなかった。

後編は5月10日(金)に公開予定です。識者への取材を通して、「子持ち様論争」と「マミートラック」の解決策を探ります。