広島県が、働く女性を応援するために作成した「働く女性応援よくばりハンドブック」が炎上している。主な批判は当然、仕事と育児(家事)の両立をなぜ「よくばり」と名づけたのかという点である。背景に、深いアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)があるように思えてならない。(フリーライター 鎌田和歌)
人材不足を女性で補うために打ち出された
「女性は育児も家事も、仕事も」
最近の10代〜20代は知らないかもしれないが、ほんの少し前まで、結婚した女性が仕事を続けることを「わがまま」とか「家庭より自己実現を優先している」と言いたがる人が男女ともにいた。筆者の観測では、2010年代の前半までは、まだそういった価値観がネットに書き込まれても大きな批判を受けることはなかった。
たとえば待機児童の問題でも、「子どもを保育園に預けてまで働くなんて母親のわがままだ」といった意見が一部に根強くあった。2010年中盤からこれが徐々に変わり始めたのは、「女性活躍」「女性が輝く社会」が盛んに打ち出されたからである。
国が「女性活躍」を言い始めたので、「女性は家にいるべきだ」といった保守的な考え方の人も多少はわきまえざるを得ない空気となったのだ。
それでは、女性活躍推進はなぜ必要なのか。せっかくなので、今回批判を浴びている広島県が作成し、アップしている資料「女性活躍推進はなぜ必要か」にあたろう。
「このまま労働力人口が減少すると、我が国の活力や成長が失われるだけではなく、企業にとっては『人手不足』の問題が深刻化し、事業継続への支障も生じかねません」
「このような懸念がある中、企業にとっては人材活用のすそ野を広げ、より多様な人材の能力を活かしていくことが大きな経営課題となります。そこで期待される人材が女性です」
期待される人材が女性です――。つまり、労働力が足らないから就業していない女性も働いてくださいよ、ということである。どうにか女性に意識を変えてもらって、専業主婦志向だった人にも働いてもらわなくては、と。
個人の意思の尊重というわけではなく、女性には子どもを産み育て、なおかつ働いてもらわないと国が困るわけである。女性が育児も仕事も頑張らないと、国が輝けない。このような事情を「女性が輝く社会」と言い換えることにも疑問はあるが、これは前述のような保守的な層に訴えかけるだけの意味はあっただろう。
しかし、今回の「働く女性応援よくばりハンドブック」はどうだろうか。結婚し子どもを産んでからも働く女性に向けられてきた「わがまま」「夫や子どもより自分のやりたいことを優先している」といった偏見を上塗りすることになりかねない表現に見える。