長寿化や年金基金の逼迫などを背景に、定年年齢の延長や再雇用の促進により70歳までは働ける社会にしようといった動きがあり、さらには定年廃止の議論もみられるようになった。実際、60歳あるいは65歳になったからといって、急に仕事能力が衰えるわけではない。今の仕事を続けるべきか。違う仕事をするならばそれをどうやって決めるか。あるいはいっそ仕事はすべてやめて趣味に没頭するか……これからの60代以上は、どのように生きるべきなのだろうか。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)
今の仕事を続けたいかどうかを見極める
定年後、どう生きるか。悩んでいる、あるいは思いつかないようであれば、まず考えないといけないのは「今の仕事をこの先も続けたいと思うかどうか」である。
今の仕事が好きでたまらない、できることならこの先も今の仕事を続けていきたい、というのであれば、定年延長や再雇用の恩恵を被って、可能な限り今の仕事を続けるべきだろう。
だが、仕事や職場が自分には合わないと思っていた人、職場に通うのをときどき苦痛に感じていた人、「転職したいなあ」と思ったこともあった人、今の仕事を積極的に続けたいとも思えないという人も、けっして少なくないはずである。その場合は、今の職場に無理にしがみつかなくてもよいのではないか。
ただし、そこで再度検討しなければならないのは、年金収入以外に稼ぐ必要があるかどうかだ。
年金と貯蓄の切り崩しで稼ぐ必要がないという場合は、これまで長年にわたって働き続けてきたことのご褒美として、現役時代にはできなかった、美術館めぐり、コンサートめぐり、映画館めぐり、読書三昧の生活、旅行三昧の生活……といった趣味人としての生活に乗り出すことができる。若い頃はあまり本気で学んでいなかったけれど、暇になったら学び直してみたいという人などは、知的好奇心に任せて市民講座などの学びの場を居場所としたり、大学の社会人クラスに入学したりするのもよいだろう。関心のある分野の学びと結びつけて、ボランティア活動に乗り出す道もある。
多少は稼がないと不安だという場合は、自分が関心のある仕事を探してみるのもいいだろう。収入にこだわらなければ、これまでのように嫌々働く必要もないのだから、ちょっと面白そうに思う仕事や刺激になりそうな仕事に乗り出すこともできるだろう。現役時代の転職のように長く続くかどうかを考えなくてもよいので、試しにやってみるという感じでもよいのではないか。