「好きなこと」にこだわり、それを趣味か仕事にする
大切なのは、現役時代のように自分の気持ちを無理に抑えて働く必要はなく、趣味に生きるにしても、働き続けるにしても、「好きなこと」「好きな過ごし方」にこだわってもいい時期になるということである。
若い世代の間では「好きなこと」探しがブームになっており、「好きなこと」を仕事にしたいといった志向が強まっているが、定年を目前とする世代が就職した頃には、そのような発想は現実的ではなかったはずだ。ここに来て初めて、好きなことをして暮らすことが夢ではなく現実になり得るわけである。趣味として、あるいは仕事として。
運よく好きなことと仕事が結びついたケースの代表が植物学者の牧野富太郎だ。昨年その生涯がNHKの朝ドラになったので、知っている人も多いだろう。退職後も、現役時代と同じく植物研究を死ぬまで続けた姿は、好きなことをして生きる過ごし方のモデルとして参考になる。
牧野は土佐の酒造家の跡取りとして生まれたが、子どもの頃から植物が好きだった。青年期になっても植物に夢中で、家業を継ぐつもりなどさらさらなく、植物研究に没頭し、ついに植物学の第一人者になったという植物学者である。
一方、自分の興味のないことには熱心になれない性格で、小学校も中退してしまうほど。学歴もないままに独学で学問を究めた、異色の存在でもある。
とにかく植物に触れていれば満足で、植物のこと以外何も考えられないほどであり、その実力が認められて50歳のときに東京帝国大学の講師となり、77歳で講師を辞任した。しかし植物学という仕事が趣味でもあったので、所属がなくなっても生活は変わらず、90代になっても植物学への情熱は衰えることを知らなかった。