長年勤めてきた会社生活から引退するとなると、誰でも感傷的な気分になりがちだ。通う場がなくなることに戸惑いを感じる人も少なくないだろう。しかし、毎日職場に通わなければならなかったこれまでの人生で、「いつか自由な身になりたい」と思うこともあったのではないか。それが現実になるのである。手に入る自由をどう楽しむか、そんな前向きの気持ちで、定年後の過ごし方を考えておくべきではないだろうか。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)
いつの間にか、自由に過ごす方法を忘れてしまっている
定年後の生活の難しさは、長年組織の縛りの中で生きてきたのに、いきなり「自分の好きなように生きれば良い」となるところにある。
組織生活に息苦しさを感じ、もっと自由に生きたいと思っていた人も、いざ自由にしていいとなると、どうしたらいいか分からなくなる。組織生活に適応し、やりがいを感じていた人は、組織の縛りを喜んで受け入れてきたわけで、それがなくなり自由にして良いとなったときの戸惑いは非常に大きい。
いずれにしても、定年退職によって自由になると、せっかく手に入れた自由を持て余し、暇でしようがない、毎日をどう過ごしたらよいかわからないなどと言い出す人が多い。
人間というのは勝手なもので、人から強制されると抵抗を示す人も、自由にやるように言われると戸惑うものである。「言われた通りにやればいいんだ」などと言われるとモチベーションが下がってしまうと嘆く人に、「では、自分の思うように自由にやってくれればいい」と言うと、「いきなり自由にしろと言われても困る。どうすればいいのか示してくれないと」などと言い出す。
会社生活では、給料をもらう代わりに会社にとって必要な仕事をする義務がある。そんな自由度の小さい生活に嫌気が差し、やらなければならないこと、必要なことだけして暮らすなんて虚しいと言う人も、いざ自由にしていいとなると、どうしたらいいのか分からなくなる。組織の原理に従って暮らすことに慣れすぎてしまい、自分の思うままに自由に暮らす方法をいつの間にか忘れてしまっているのだ。