生涯発達の時代と言われる今日、かつてのように中年期以降は衰えていく時期ととらえるのでなく、定年後の60代以降も人は発達し続けるとみなすようになった。それに呼応するかのように、60歳とか65歳といった年齢にとらわれずに、生涯にわたって仕事を続けていこうという人も出てきている。そのモデルとして参考になるのが、今も圧倒的な人気を誇る葛飾北斎の生き方である。19歳で絵師デビュー、60歳で初心に返り、89歳にして「もっとうまくなりたい」と言っていたという北斎は、どんな人生を送ってきたのだろうか。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)
中年期以降も、人間は成長できる~「生涯発達」という視点
中年期以降は喪失や衰退の時期というとらえ方がなされることが多い。心理学の研究においても、たとえば知能の発達も、かつては青年期をピークとし、それ以降は伸びることなく、衰退の一途をたどるとみなされていた。ところが、成人期になってからの知的な発達も捨てたものではないことが分かってきたのだ。
たしかに単純な暗記などの課題では30歳頃に成績が下がり始めるものの、文書や人の話などの言語情報の理解や語彙の理解のような課題では、少なくとも測定がなされた60歳まで成績が伸び続けていたというデータもある。
実社会で有能に働くには、計算の速さや暗記力よりも、人生経験や仕事経験によって生み出される知恵を働かせることが必要である。そこにある種の知能を想定すれば、それは人生経験の積み重ねによってどこまでも豊かに向上し続けていくと考えられる。
そこで参考になるのが、知能を流動性知能と結晶性知能に分けるとらえ方である。