「知識の習得期間は、家庭での正しい血圧測定方法や、高血圧を放置するリスク、減塩・減量のコツなど幅広い内容を網羅的に学べます。次のステップでは、より個人の生活に落とし込んだ“実践の指導”を開始。アプリ内のアシスタント役のキャラクターからの質問に沿って、自分の食生活や運動習慣、睡眠時間などを入力すると、生活習慣の改善策を提案してくれるんです」
ステップ2の期間は約1カ月。患者本人が入力した情報をもとに「うどん、ラーメンの汁は飲まない」「寝る前2時間は食べない」「6時間以上の睡眠をとる」などの“行動目標”を提示してくれる。
「ステップ3では、前段階で提案された行動目標を実践し、習慣化していきます。その間も、家庭用血圧計で朝晩毎日『収縮期血圧(通称:最高血圧)』と『拡張期血圧(通称:最低血圧)』を測定して数値を記録。一方の主治医は、診察時にそれらの記録をもとにアドバイスや指導を行い、降圧目標の達成を目指します。アプリに提案された行動目標と照らし合わせて、実践するための方法を一緒に話し合うこともありますね」
患者の血圧の記録は、担当医師が常にアクセスできるため、診察がないタイミングでも遠隔で確認できるという。医師と患者が二人三脚で取り組むのが、スマート降圧療法の肝なのだ。
100人以上に処方して見えた
スマート降圧療法のメリット・デメリット
野田氏は、この治療法を半年前に導入し、自らも実際に利用したうえでアプリを併用した治療を患者に勧めている。中高年層から最年長の84歳まで、100人以上の患者に処方した結果「スマート降圧療法のメリットとデメリットが見えてきた」と、野田氏。
「最大のメリットは、患者さんが“正しい知識”を身につけられる点です。先述の通り、以前から栄養指導や運動法を伝えていましたが、実生活に取り入れられる人はごく一部でした。しかし、アプリならば毎日正しい情報に触れ、個人の生活に紐づいたアドバイスが受けられるので、自分ごととして捉えやすくなります。患者さんにアプリ利用後の変化を尋ねたところ『今までは、なにも気にせず好きなものを食べていたが、今は成分表示を見てから買うようになった』と話していました」
ただし、患者が真剣に治療に取り組むか否かは「個人の性格に左右される」とのこと。診察中は真面目な印象を受けていた患者でも生活に変化が見られず挫折することもあれば、渋々はじめたにもかかわらず、きっちり実践して血圧が下がった人もいるそう。個人差が如実に表れる治療法でもある。