いつの時代にも「卒業したら就職する」という、普通とされる生き方を選ばない夢追い人がいる。そんなバンドマンたちの経験でとりわけ多いのが、正規就職しないことへの批判だ。彼らが何を思うのか、リアルな実態をインタビュー調査した。本稿は、野村 駿『夢と生きる バンドマンの社会学』(岩波書店)の一部を抜粋・編集したものです。
正規就職しないことを
批判されるバンドマン
バンドマンたちの経験の中でとりわけ多いのが、正規就職しないことへの批判である。
たとえば、標準的ライフコースを望む家族との対立がある。筆者が話を聞いたハルマとシンジは大学2年生で、就職活動を控えていた。二人の親はともに就職することを望んでいる。「将来安定した仕事に就いて結婚して子どもを授かってほしい」とは、標準的ライフコースそのものである。
――親御さんとかバンドやってることに対して何もいわないの?
ハルマ:いや、やっぱ期待してくれてる反面、心配なことも思ってて。本当僕の母親とかは、結構そういうところ気にするじゃないけど、「将来安定した仕事に就いて結婚して子どもを授かってほしい」みたいな。まあでも、僕はもう知ったことかっていうふうに思っちゃうんですけど。
――いわれるの、結構?
ハルマ:いわれますね。「もう大学2年終わるまでにある程度目途が立ってないんだったら、あんた、ちゃんと3年だから、就職のこと考えなさい」みたいなこといわれて。「えー」みたいな。
シンジ:僕もいわれますね。「いい会社に就職しなさいよ」みたいな。「わかった」とは表面上いってるけど、腹の内では「だれが就職するか」って思ってる。
こうした家族とのやりとりは、夢追いを選択した後にも続く。夢追いに反対する親との衝突を避けるようにして一人暮らしをし、家族と疎遠になっているケースも複数みられた。
――(家族が)応援してくれてる感じではないの?
リク:ないっすよ。ないというか、遊んどると思ってます。それはもう仕方ないとは思いますけど。別にそれを理解してくれとかいうつもりもあんまりないし。
夢追いに否定的な反応をみせるのは、家族に限らない。それ以外にも、かれらはさまざまなところで否定的な反応を受け、またそれを敏感に感じ取っている。マサの経験は象徴的だろう。
マサ:ゼミの先生とかともいろいろ揉めたんで。どうせお前なんかできないだろみたいな雰囲気だったんで。
――みなさんそういう経験あるんですね。