では、こうした批判に対し、バンドマンたちはどのように対応しているのか。彼らへのインタビューを通して明らかになったのは、反対する家族を説得したり、批判を受け流したり、批判に抵抗したりすることで、いずれも夢追いの維持が導かれていることである。

 そして、これらの対応が可能になる背景には、ライブハウス共同体があった。たとえ失敗や挫折をしようとも、それを挽回してくれるだけの力を秘めたライブハウス共同体は、外部の批判からバンドマンたちを護り、かつそれへの抵抗の足場となるだけでなく、内部での競争を煽ることで、幾重にも夢を追い続けさせる装置として機能しているのである。

 このライブハウス共同体は、基本的にはバンドマン個々の相互行為によって形成されるが、それだけでなく、ライブハウスが有する対バン形式や打ち上げといった「組織/環境レベル」にも支えられている。そして、次世代を巻き込みながらバンドシーンの再生産にも結びついていた。

書影『夢と生きる バンドマンの社会学』(岩波書店)『夢と生きる バンドマンの社会学』(岩波書店)
野村駿 著

 以上を総合すると、バンドマンたちの夢追いの維持には、〈若者文化〉が複数のレベルでもって影響していることがわかる。一方には、〈教育〉〈労働〉〈家族〉の三領域を中心として形成される標準的ライフコースがあり、かれらは〈若者文化〉に依拠して、もう一方の夢追いライフコースへと突き進んでいく。そこでは、夢追いに対する批判も、夢追いの中で経験する失敗や挫折も、夢を追い続けるための糧に変換される。こうしてかれらは、否定的経験を経てもなお夢を追い続けていくのである。

 ただし、ライブハウス共同体に準拠することが、かれらを支えるのみならず、逆に夢の実現を遠のかせてしまうと、かれら自身から指摘されていた点は注目に値しよう。たしかに、ライブハウス共同体は、バンドマンたちを外部の批判から護り、それに抵抗するための拠り所となる。しかしその居心地のよさが、さらに跳躍してより上の階梯に進むことを困難にさせてしまうとすれば、この両義性こそが夢追いにおける〈若者文化〉の影響の特徴として指摘できるかもしれない。