大の字になる女性とギター写真はイメージです Photo:PIXTA

身体的にも精神的にも過酷な音楽活動により、20代前半で夢を中断したり断念したりするバンドマンは少なくない。だが、そうしたハードルを乗り越えた筋金入りのバンドマンですら、「将来への不安」から夢を諦めていくという。彼らの不安は具体的にどのようなものなのか、インタビュー調査した。本稿は、野村 駿『夢と生きる バンドマンの社会学』(岩波書店)の一部を抜粋・編集したものです。

バンド活動を続けたくても……
無視できなくなる将来への不安

 過密なライブスケジュールによって身体的問題を抱えたり、過度な緊張を強いるバンド活動に疲れて精神的問題を抱えることで、結果的に夢追いを中断したり断念するバンドマンは少なくはなく、20代前半に顕著に確認できる。

 こうした問題をくぐり抜けた先で、バンドマンたちはどうなるのか。30代に突入して夢を追い続ける者もいるし、音楽事務所に所属してメジャーデビューを果たす者もいる。しかし、併せて考えたいのは、就職や結婚などを理由にして夢追いから離れていく者たちが、決して少なくない数で存在するということである。標準的ライフコースに抗いきれなくなって夢を諦めるというものである。ここでのキーワードは「将来への不安」である。

――どういう理由でみなさんバンドをやめるんだろうなって思って。

ダイキ:本当にガチでやってる人だと、お金の面とかが出てくるかな。金銭的な面と、将来への不安。漠然とした将来への不安って絶対つきまとってくるから。

――何に対する不安なんですか?

ダイキ:生きることに関すること。どんぐらい金かかるかわからんけど、俺このまま人生歩んでいって、まあ不安定な職業のまま、もちろん世間からの目もだんだん厳しくなっていく。それでいいのかなとか。

 一方、「将来への不安」がないとするバンドマンも存在した。しかし、語りの全体を聞くと、実際にはどこに「不安」を感じているのかがみえてくる。

――将来への漠然とした不安みたいなのはある?

レン:結婚とかだよね、不安になるとしたら。……まず金がないじゃん。で、金がないと結婚を先延ばしにするっていう選択肢しかないわけじゃん。で、周りは就職してて、貯金もあって。歳を取るたびに若いころにはやりたいことがやれてるってだけで勝ち組だったのに、歳取れば取るほどほぼ負け組に近づいてくると。社会的な立場みたいなのを考え始めると、何か、その不安はめちゃくちゃあるけど、まあ人によってはね、そこに目をつぶって「楽しいよ」っていうか、「終わった」っていうか。

 ここでの不安の正体も、金銭的困難による結婚の先延ばし、つまり標準的ライフコースに関わるものであった。そして、「勝ち組」「負け組」という表現で語られたのも、標準的ライフコースをたどる者との差異、かれらに取り残されていくような感覚である。マサはそれを「孤独」と表現して、次のように語った。