加えてリオが語るのは、たとえ夢を実現できたとしても、そうした不安はかたちを変えてぬぐい切れないということである。現在、リオは音楽事務所に所属しながら活動しており、潤沢な活動資金があるなど、ある種夢を実現したとみなせる状況にあった。

 実際、彼を含めて所属するバンドのメンバー全員が、アルバイトをすることなく音楽活動のみで生計を立てられている。しかし、リオは「仕事になってからも責任は伴うから」と、「責任」の「重さ」を強調した。つまり、プロとしてさまざまな職業人と協働しながら楽曲を制作しなければならない重圧が、バンドマンにのしかかっているのである。この意味で、バンドマンの抱える不安は完全に消え去ることはない。

書影『夢と生きる バンドマンの社会学』(岩波書店)『夢と生きる バンドマンの社会学』(岩波書店)
野村駿 著

 標準的ライフコースが厳然と存在する中で夢を追うかれらは、それによって少なからず将来への不安を抱えざるを得ない。年齢を重ねるにしたがって、将来への不安が無視できなくなるほどに大きくなる。

 しかも、夢を実現した先には、また別の不安(重圧)が待ち構えている。こうした何重もの不安が代わる代わる押し寄せる中で夢追いは維持されている。

 そして、この不安に耐えきれなくなったとき、かれらは夢を諦める。多くはバンド活動からも身を引き、別の人生を歩んでいく。