中年期の日本人は
特に自殺のリスクが高い

 1998年以降、働き盛りの中高年の社会人が自ら死を選ぶ傾向が強まっています。

 高橋祥友によると、不況と経済的な停滞によるものだけではなく、中年期は、特に自殺のリスクが高いと思われるといいます。

 また、内閣府で実施されている定期的な調査によると、悩みと不安を感じている人は6割を超え、中でも40~50代が最も不安が強いとされています。

 エリクソンEHによると、中年期は思春期と同じく、人間の心理的な発達過程に基づいており、衰える体と自己実現の危機は、「生殖性対停滞」「完全性対絶望と嫌悪」といった葛藤を生じさせるといいます。

中年期の日本人に起こる
心身の変化と周囲の変化

 岡本祐子は、日本人の41~56歳(中年期)の男女22人を対象に、面接調査を行いました。その考察によれば、日本人の中年期にはアイデンティティーの再構築(クライシス)が生じるといいます。

 このアイデンティティーの再構築(クライシス)の第1部分は、自分の身体や体力の衰え、「自分はもう若くない」といった認識や老いと死への恐怖からなるといいます。

 第2部分は、以降の人生に対する否定的認識「自分はこれで良かったのか」「本当の自分は何なのか」といった、問い直しが起きるといいます。その答え次第で、自認した「社会的なアイデンティティー/役割」の再構築、もしくは心理的な危機が生じ得るのです。

 また、岡本は「成人期におけるアイデンティティーのらせん式発達モデル」を提唱しました。

 中年期のアイデンティティーの危機においては、以下の2つが順番に起きます。

 まず、中年前期に「体が思うように見えない、動かない」といった「心身の変化の認識」が生起し、中年後期(定年退職期)に、自分の居場所が無くなったといった「自己内外の変化の認識」が起こります。

 ここで、老化プロセスを認め、自身の「社会的な役割」が消失すれば、ミッドライフ・クライシスは成立してしまいます。

「役割の消失」ほど、日本人にとって苦痛なものはないからです。

ミッドライフ・クライシスと
アイデンティティーの共通点

 松尾洋平と渡辺三枝子の研究では、「現代の中年職業人に、重篤な不適応を引き起こす心理的危機が存在する」と提唱し、「環境要因からくる不安感が、ミッドライフ・クライシスを高めている」ともいいます。