日本企業の大半を買収できる「ハーバード大学基金」超絶リッチの理由写真はイメージです Photo:PIXTA

日本とアメリカでは、「大学」の収益構造や研究者の経済状況に驚くほどの違いがあった。なかでもハーバード大学の基金残高は莫大で、みずほFG(時価総額7.7兆)、ゆうちょ銀行(同5.7兆円)など、トヨタなどの超大手を除くほとんどの日本企業を余裕で買収できる財務力を持つほど。世界中から優秀な人材が集まる、アメリカの大学の求心力の秘訣に迫る。本稿は、木谷哲夫『イノベーション全史』(BOW&PARTNERS)の一部を抜粋・編集したものです。

スタートアップで巨額の
利益を上げるアメリカの大学

 イノベーションを生むエコシステムの中での大学の機能が重要なことは、数々の研究や著作によって明らかになっています。(※編集部注/ビジネスの文脈におけるエコシステム=企業同士が協力し、業務やサービスを補い合うこと)

 シリコンバレーのエコシステムでスタンフォード大学と並んで大きな役割を有する、U・C・バークレーでは、アクセラレーションプログラムが2012年に設立され、スタートアップを量産し、インキュベーターとしての設備、メンタリング・コーチング、プロトタイピング用ラボなどの機能を持っています。

 アントレプレナーシップ専門の教育組織は2005年に設立され、バークレーメソッドという国際的に認知されている教育アプローチを開発、学部生から社会人までを対象にアントレプレナーシップを教育する18のコースを有しています。

 イノベーション・エコシステムの中核機能を大学が果たすようになったため、アメリカの大学の財務基盤はここ10年ほどで極めて強固なものになりました。研究費の総額は増え続けており、2020年度は830億ドル=約12兆円。大学発スタートアップも研究費の伸びに歩調を合わせて増加し続けています。

 なぜ大学の研究とスタートアップの数が大きく関係するかというと、アメリカで研究成果を大学の所有物とするバイドール法が成立し(1980)、研究成果をライセンス販売することで、大学が大きな利益を得るようになったからです。

日本企業の大半を買収できる
ハーバード大学基金のリッチぶり

 遺伝子組み換えのジェネンティック社の場合、スタンフォード大学だけで230億円のライセンス収入がありました。グーグルは創業時資金がなく、ライセンス費用を一部株式で大学に対して支払ったため、株式上場時にスタンフォード大学は400億円の利益を得ています。

 大学の知財のライセンスは、ほとんどベンチャー企業や中小企業向けに供与されています。2020年のAUTMのサーベイでは、ライセンス提供先の6割がベンチャー企業を含む小企業や中小企業であり、大企業の割合は2割にすぎません。大企業にライセンスを安値で販売している日本の大学と大きな差があります。