仕事のキャリアをよい方向に導く“緩やかなつながり(弱い紐帯)”を考える

働く者一人ひとりの「キャリア」がいっそう重視される時代になった。個人が職業経験で培うスキルや知識の積み重ねを「キャリア」と呼ぶが、それは、一つの職種や職場で完結するものとは限らない。「長さ」に加え、キャリアの「広さ」も、エンプロイアビリティ(雇用される能力)を左右するのだ。書籍『個人と組織の未来を創るパラレルキャリア ~「弱い紐帯の強み」に着目して~』(*)の著者であり、40代からのキャリア戦略研究所 代表の中井弘晃さんは“パラレルキャリア”こそが、個人と組織を成長させると説く。今回は、 “パラレルキャリア”の効果の一つである「弱い紐帯」について、中井さんが解説する。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

* 中井弘晃著『個人と組織の未来を創るパラレルキャリア~「弱い紐帯の強み」に着目して~』(2022年10月/公益財団法人 日本生産性本部 生産性労働情報センター刊)

転職にも有効に作用していく「弱い紐帯」とは?

 終身雇用の時代が終わり、一つの会社で定年まで過ごすことが当たり前ではなくなった現在、キャリアをどのように築いていけばよいでしょうか。一つのキーワードは「転職」です。

 ある就活サービス企業の調査によると、2023年春入社の社会人の約4割が転職を視野に入れているようです。私が新卒で入社した1980年代には、「転職」を昨今のように前向きな意味でとらえる発想自体がほとんどなかったので、まさに隔世の感です。

 今回は、パラレルキャリアの効果の一つであり、「転職」にも有効に作用する「緩やかなつながり」について考えてみたいと思います。

 Facebook、X、LINEなどSNSが全盛の時代、私たちの周りはネットを通じた「緩やかなつながり」にあふれ、公私に大きな影響を及ぼしています。ネット上でのつながりがきっかけで転職に至ることもあるでしょうし、ネットを通じて生涯の伴侶を得ることもあります。便利で効果的である反面、犯罪につながるなど功罪相半ばすることも看過できません。

 また、ネット上では多くのつながりがあるにもかかわらず、表面的なつながりにとどまり、孤独を感じている人がいることも、しばしば指摘されます。ネットとリアル双方で生み出される人とのつながりを有効に活用し、人生やキャリアを豊かなものにしていきたいものです。

「緩やかなつながり」のことを社会心理学の用語で「弱い紐帯」と呼ぶことがあります。

「紐帯」というのは、聞きなれない言葉かもしれませんが、帯(おび)や紐(ひも)のことです。それが転じて両者を結びつける大切なもの、つながりとなります。つまり、「紐帯」は人間関係における、人と人とのつながり、結びつきを意味します。

「弱い紐帯」の例として、年賀状だけのやり取りの人、同窓会で会う程度のめったに会わない人や、異なる環境で仕事をしている関係性の弱い人などがあげられます。かつて同僚であったが疎遠になっている人、異業種交流会で会話をし、名刺交換を行っただけの人、SNSでたまにやり取りする人なども「弱い紐帯」といえます。

 実は、転職の際に、この「弱い紐帯」が効果的であることは、今から約50年前、米国の社会学者でスタンフォード大学教授のマーク・グラノヴェターの研究によって示されています。転職に際しては、「弱い紐帯」ではなく「強い紐帯」(親兄弟や職場の上司、同僚など強いつながりの人)の影響力が大きいと考えられていた時代に発表された、この研究結果は当時の人々に大きな驚きを与えました。

 この、一見矛盾する、興味深い結果は「弱い紐帯の強み」(The strength of weak ties)と称されて、現在に至っています。