なぜ、「弱い紐帯」がきっかけで転職できるのか?

 転職の際に、関係性の強いつながりである「強い紐帯」ではなく、「弱い紐帯」がより効果を発揮するのはなぜでしょうか。私はその理由は二つあると考えます。

 一つ目は、よく指摘されることですが、情報の内容(質量)。つまり、関係性の強いつながりの人(強い紐帯)は生活圏や価値観も類似しているため、持っている情報も似たものになりがちです。一方、関係性の弱い人(弱い紐帯)は生活圏が異なり、価値観も異なるが故に得られる情報も新規性があり、効果的です。

 二つ目は、直接的な利害関係が少ない点だと私は考えます。例えば、「強い紐帯」である会社の同僚は、友人であるとともに、ある意味、ライバルといえるかもしれません。仮に同じように転職を考えていた場合、情報を提供することによって自分の立場にデメリットが及ぶかもしれないと思い、情報提供をためらうかもしれません。一方、「弱い紐帯」であるちょっとした知人で、利害関係がない場合、特にためらうことなく、情報を提供してくれます。

 実際に「弱い紐帯」のおかげで転職できたというケースが多々あります。私もその一人です。

 58歳で失業者となった後、59歳で大学教員に転職できましたが、まさにちょっとした知り合い(弱い紐帯)からの情報がきっかけでした。会社員として35年間勤務していた私は、所属企業が大規模な早期退職制度を展開した2018年に、58歳で早期退職しました。その後、約半年間、失業者となり、次の仕事を模索していました。その時に、同じ社会人大学院の先輩(弱い紐帯)から「筑波大学社会人大学院カウンセリングコースの修了生が運営しているキャリア関連のボランティア活動(TCCP)に参加してみたらどうか?」というアドバイスをいただきました。無事にメンバーとなり、初めてミーティングに出席した後の懇親会で、別のちょっと知り合いの方(弱い紐帯)から「明海大学が大学教員を公募中」という情報を得ました。帰宅後、改めてネットで情報を確認し、翌日には書類を作成の上、応募して、幸運にも専任講師として採用されました。これは、パラレルキャリア(私の場合、55歳から通った社会人大学院)を通じてできた「弱い紐帯」から転職のきっかけとなる情報を得た事例といえます。私の例だけでなく、もう一つ「弱い紐帯」が転職に効果を発揮した例を紹介します。

 新卒で教育・出版関連の企業に入社し、その後、3回ほど転職し、最終的に、40歳を過ぎた時に落語家に転身(キャリアチェンジ)した人の例です。

 3回目までの転職は、すべて、前職で一緒に働いた上司や先輩の紹介や誘いによるものだったようです。「前職で一緒に働いた」という点がポイントです。単にネット上だけの緩やかなつながりではなく、実際に、一緒に仕事をしたというリアルでのつながりがあり、そこで元上司や元先輩はその人の働きぶりや人間性をわかっていたが故に、一緒に仕事をしようと誘ったのでしょう。

 最終的な転身(落語家へのキャリアチェンジ)についても、「弱い紐帯」が影響しています。この方は編集者として、その後に師匠となる落語家の担当をしていた時期があったようです。元々、落語に興味を持って、自身もたしなんでいたというベースに加えて、その落語家との出会い、つながりが、大きな転身につながった例です。

 異業種交流会で名刺交換をした人やSNSでつながっている関係も「弱い紐帯」といえます。しかし、上述の例が示すように、リアルでの接点があることや、協働経験、相互信頼関係が構築できていた場合に、「弱い紐帯」の効果は、より発揮されるといえるでしょう。