仕事のキャリアをよい方向に導く“緩やかなつながり(弱い紐帯)”を考える
パラレルキャリアが「弱い紐帯」を効果的に作る
転職時に「弱い紐帯」が効果を発揮するということを述べてきましたが、「弱い紐帯」は単に「転職」に役立つだけではありません。私が強調したいのは、「キャリアをよい方向に進める」という、より大きな目的に対して効果がある点です。
転職というのは、キャリアをよい方向に進めるための、一手段です。
自身のスキルを最大限に活かせる場が現在の職場にあれば何も転職する必要はないでしょう。所属組織で能力が発揮できれば個人にとっても組織にとってもよい話です。しかし、残念ながら、スキルや能力を活かせる場がなく、かつ、自身が許容できる時間軸の中で、活かせる場の実現が難しい場合、次の選択肢として「転職」が出てくると私は考えます。
私のお勧めは、パラレルキャリアを実践してスキルアップを図り、自らを成長させ、広がった社外の「弱い紐帯」のネットワークを、まずは自分の本業で活かすことに全力で取り組むことです。現在の所属組織を自身のスキルを活かすプラットホームとして活用することです。
人材の流動化が叫ばれている昨今ですが、スキルアップした人材が所属組織で力を発揮できないまま社外流失してしまうことは、必ずしも、個人にとっても組織にとっても望ましい姿とは思えません。転職するにしても、社内で実績をあげてからの方が、個人の市場価値も上がります。
私自身、55歳の時に、学び直しのパラレルキャリアとして入学した社会人大学院を修了した後、そこでの学びを活かして、人事部で企業内キャリア相談員やライフプラン研修の講師をつとめました。そうした経験が次の大学教員への転身につながったとも考えられます。
ちなみに、社会人大学院ではカウンセリングや心理学を学びましたが、学んだ知識・スキル自体以上に、それまで接する機会がなかった人たちとの出会いが貴重でした。年齢は20代から60代と多岐にわたり、私のようにビジネス領域から入学してきた者は少なく、周りは、教育領域、医療・看護領域、法務領域、報道領域など様々な領域の出身者でした。社会に出て30年以上経っていたにもかかわらず、自分の知らない世界が多いことを痛感しました。共に行うプロジェクトでの異なる視点からの議論に大いに刺激を受けたものです。
個人が一皮むけるためには、自分の殻に閉じこもるのではなく、外に出て刺激を受けること、外部の視点を貪欲に吸収することが大切です。厳しいビジネス環境のなか、組織への貢献度を高め、自分自身を守ると同時に、将来のキャリアアップやキャリアチェンジなど攻める手段としても「弱い紐帯」は機能します。そして、その「弱い紐帯」を効果的に作る手段が「パラレルキャリア」であるとも言えます。パラレルキャリアを実践し、自らに様々な刺激を与え、スキルを向上させるとともに、信頼できる「弱い紐帯」を増やしておくことで、組織に左右されない自分軸でのキャリア創りも可能となります。
「果報は寝て待て」ではなく、「果報は練って待て」です。