養老 うん、そうでしょう。

丸山 はい。日本人に「音を出す昆虫」と言うと、まず連想されるのはセミやキリギリス、スズムシなどでしょう。でも、実はほとんどの昆虫が音を出しているんですね。もちろん人間には聞こえないような大きさや音域ですが、どうやら間違いなく音を出しているということがわかってきました。より細かく見ていくなかで、やすりの目のような発音器官が体のあちこちについていることがわかって。

「匂い」は集団相手用で
「音」は個別相手用?

養老 そう、電子顕微鏡で昆虫を見ていたら、どう考えてもこれは発音器官だろう……というより、動いたら明らかに音が鳴ってしまうだろうと思えるものがある。見るからになんだかガシャガシャしていてね。アリヅカムシにはお腹と足の境のところにそれぞれ突起があるんだけど、それを開いてみるとギザギザしているのがよく見えるんだよ。

中瀬 洗濯板みたいになっているところですよね。

養老 まさにそう。あんなの、腹を動かしたらキリキリ音を立てるしかないじゃないの。だから、コミュニケーションは音でも活発に交わされているのは間違いないな、と。

中瀬 東南アジアには、体の一部を震わせていて明らかに音を出しているはずなのに、どんなに耳を澄ましても何も聞こえてこないコオロギの仲間がいます。あれは、人間にはとても聞こえないような高い音を出しているに違いなくて。

丸山 マツムシモドキの仲間かな。モスキート音よりもさらに高い音を出しているのでしょう。

養老 フェロモンや匂いを使うのは、より多くの個体、いわば集団を指揮するようにコントロールするためにはいちばん効率がいいかもしれない。それに、「この匂いがしないやつは味方じゃない」というふうに、敵味方を判別するための手段としては有効なのは間違いないしね。ただし、やっぱり個体同士でコミュニケーションを取りたいんだったら、匂いだけを使うっていうのはちょっと無理があると思うよ。

丸山 そうですね。

虫は体に生えている毛で
音を拾っている?

中瀬 匂いは化学物質を分析することで確認できるとして、音でコミュニケーションがなされていることは証明するのが難しいですよね。昆虫が発する音域まで拾える高性能な特殊マイクやバットディテクター(コウモリ探知機)は繊細ですぐに壊れてしまうようですし。