生き物たちは、驚くほど人間に似ている。ネズミは水に濡れた仲間を助けるために出かけるし、アリは女王のためには自爆をいとわないし、ゾウは亡くなった家族の死を悼む。あまりよくない面でいえば、バッタは危機的な飢餓状況になると仲間…といったように、どこか私たちの姿をみているようだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル、ガーディアン、サンデータイムズ、各紙で絶賛されているのが『動物のひみつ』(アシュリー・ウォード著、夏目大訳)だ。シドニー大学の「動物行動学」の教授でアフリカから南極まで世界中を旅する著者が、動物たちのさまざまな生態とその背景にある「社会性」に迫りながら、彼らの知られざる行動、自然の偉大な驚異の数々を紹介する。「オキアミからチンパンジーまで動物たちの多彩で不思議な社会から人間社会の本質を照射する。はっとする発見が随所にある」山極壽一氏(霊長類学者・人類学者)、「アリ、ミツバチ、ゴキブリ(!)から鳥、哺乳類まで、生き物の社会性が活き活きと語られてめちゃくちゃ面白い。……が、人間社会も同じだと気づいてちょっと怖くなる」橘玲氏(作家)と絶賛されている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。

老兵は前線で犠牲になり、兵隊は女王を守るために「自爆」する…何百万年も果てしなく続くアリとシロアリの“あまりにも苛烈な戦い”とはPhoto: Adobe Stock

何百万年も続く戦い

 シロアリには自衛の能力がある―これはつまり、シロアリはそれだけ多くの敵の標的にされやすいということでもある。

 たとえば、シロアリと同じような生き方をするアリは、食料を得るためにシロアリのコロニーを攻撃することがある。

 アリとシロアリの戦いは果てしなく長く続いている。両者は何百万年と戦い続けているのだ。戦いは知恵比べの様相を呈している。アリは絶えず、攻撃対象となるシロアリの巣を探している。

 その際には、採餌に出たシロアリたちの発するにおいが手がかりになる。ただし、標的を定めるのは容易なことではない――アリは、見つけたシロアリのコロニーがどの程度強いか、またそのコロニーがどのくらい豊かかを判断する。

 シロアリの側も絶えず偵察活動をしている。アリの隊列が近づいてくれば、アリたちの発するわずかな振動で察知できるよう常に警戒しているのである。

 もちろんアリの側も、シロアリの発する音を常に聴いているので、できる限り動く時の足音を消し、自分たちの存在を消そうとする。

 いよいよアリの攻撃が始まると、シロアリの側は警報を発する。この警報は太鼓を叩くような音だ。もちろんシロアリは太鼓など持っていないが、それは問題ではない。巣の壁に自分の頭を打ちつけて音を出すからだ。

年老いたアリの決意

 非常に小さな音だが、それを聴いた兵アリたちは反応して警戒態勢に入る。自分たちの要塞の中でも最も弱い部分に集結するのだ。この戦いでは、兵アリの中でも年老いた者が前線に出る。年老いたアリは経験豊富だが、防御力が強いわけではない。

 むしろ年老いてコロニーにはあまり役立たないので、先に犠牲にしても構わないということのようだ。戦いの勝敗はお互いにとって大きな意味を持つので、その分、戦闘は激しいものになってしまう。

 犠牲者はすぐに大変な数になる。マタベレアリのように、負傷しても致命的な怪我でないアリを手当てするアリもいる。マタベレアリは負傷すると、助けを求めるホルモンを放出する。すると仲間のアリたちは負傷したアリを連れ帰り、手当てをして、また後に戦いに投入できるようにするのだ。