先の記事の内容と関連しますが、岸辺露伴はジョジョたちと同じく、「持ち主の生命力」を具現化した「スタンド」という特殊能力を、強い精神でコントロールし、そうすることで「人間」がその「運命」を切り拓いていきます。

 そして、これがこの作品最大の特徴なのです。露伴たちは人間の手にあまるような、厳しい「運命の必然」と戦います。

 本来、神や自然災害や事故といった大いなる力に従うしかない無力なはずの人間が、自分自身の意志で立ち向かう――つまり、『岸辺露伴は動かない』という作品において、本来なら傍観者として「動かない」はずの露伴は、「運命」と戦う時に「動く」のです。

 次にモティーフ同士を単純に比較してみましょう。対比関係にあるモティーフを並べていくと、以下のような法則が浮かび上がってきます。

表5 共通要素によるグループ化と対比関係同書より 拡大画像表示

 このように配列ひとつとっても、作者・荒木飛呂彦の周到な心くばりが細部にまで感じられる並びになっているのがお分かりいただけると思います。このような複数の短編が収録されている本について、収録話の並び方を分析するための理論を「配列論」と呼びます。

 これは、おもに民間伝承研究(昔話、伝説、説話、メルヒェンなどが対象)で使用される方法です。この岸辺露伴シリーズは学術的な意味においても「民間伝承」との共通点が多々感じられます。

 メルヒェン集、伝説集では、収録されている各話の配列をそれほど意識的に行っていない場合でも、第1話目と最終話には、その本の主題を象徴するような話を置くことが多いです。民間伝承集によく見られるこの特徴が『岸辺露伴は動かない』にも見られます。ちょうど最初と最後の物語が「人間のパワー」に関連する内容になっていて、ここに「荒木飛呂彦らしさ」があらわれているといえるでしょう。