伝統的な家族観は崩壊し
若者の生活の西洋化が進む

 中国人の伝統的な生活様式と家族意識といえば、大家族と親孝行である。伝統的な祝祭日といえば、春節(旧正月)、清明節、中秋節などであるが、いずれも家族団らんのためのものであると考えられている。日本のお正月に相当する春節は、家族が集まって一年の終わりを祝い、新たな一年の無事を祈るもっとも重要な祭日である。清明節は先祖を祭る祭日で、墓参りする人が多い。中秋節は中秋の名月を観賞しながら一家団らんする重要な祭日である。

 しかし、40余年間の改革・開放を経て、中国人、とりわけ若者の生活は西洋化しており、核家族化も進んだ。中国社会では、伝統的な生活様式は徐々に消えていっている。伝統的な祭日は休みにこそなるが、家族が集まらないことも多くなっている。また、春節の風物詩である爆竹は環境汚染をもたらすとして、都市部を中心に多くの地域で禁止・制限された。若者にとって伝統的な祭日は、中身のない大型連休になっているようだ。とくに、独身の若者は実家に帰ると親に結婚を急かされるため、家族と集まるのを嫌がる人が少なくない。

 かつて中国では、親孝行が儒教の美徳とされていた。今は「啃老(こうろう)」、すなわち、親に支援を仰ぐ若者が増えている。日本では若者は自立して実家を出た後、たまには顔を見せに帰ってくるが、基本的に経済的に自立しているのがほとんどである。中国では、むしろ親の支援を頼りにする若者が多い。

 中国でも出生率は低下しており、子供を産まないか、産んでも1人だけである。その結果、中国の家庭の形は完全に変わってしまった。子供が多い大家族は過去のことで、今はほとんど「4─2─1」という逆三角形の構成になっている。4は高齢者で、2は現役の夫婦であり、1は子供である。公的な介護保険は整備されておらず、4人の高齢者を夫婦2人で介護することは現実的に不可能である。