相手に寄り添いながら、話し、聞くことが大切

 キャスターやリポーター、インタビュアーの経験を通して、常に「言葉」と「表現」に気を配ってきた牛窪さん。「話す」こと、「聞く」ことにおいて、大切にしている姿勢は何か?

牛窪 「話す」ときは、私の伝え方が一方的にならないようにすることです。たとえば、スピーチは、一方通行のように思えるかもしれませんが、聞き手がいる限り、そうではありません。私の場合は、「ここまでの内容を、皆さんは理解できたでしょうか?」と、聞き手の理解度を確認しながら話を進めていきます。また、大勢の聞き手がいるということは、話の受け取り方もさまざまだということ。それを前提に、自分の価値観だけで話さないようにしています。物事の両面、話の内容のメリット・デメリットの双方を伝え、語尾は、「〜だと思います」「〜という説もあります」といったふうに、にごしたほうがよい場合もあります。事実は断定表現にしますが、ひとつの考えに縛らないように話すことを心がけています。

 1対1で話す場合も、相手の理解度をしっかり確認しながら、一方的にならないように……その方に寄り添いながら、言葉を伝えるようにしています。

「相手を説得したい」「自分の話に納得してもらいたい」という場面もありますが、そういうときは、相手が受け入れやすい言葉を使います。たとえば、慎重な方に成功事例ばかりを話しても響きません。慎重な方はリスクを考えますから、デメリットをあえて伝えていく。どのような言葉が受け入れてもらいやすいかは、相手のことをどれだけ理解しているかによりますから、その人の言動や言葉遣いに注意して、“響く言葉”を伝えたいですね。

 スピーチでも、1対1の対話でも、一方的にならずに、相手に寄り添いながら話すこと――この“寄り添う”スタンスは、「聞く」姿勢でも同じだと牛窪さんは言う。

牛窪 「聞く」ことによって相手の潜在的な思いを引き出すことができます。最大限に引き出すために、あえて、自分の思いや意見を伝えず、誘導尋問しないことが大切です。たとえば、部下に仕事の状況を聞きたいとき、「うまくいっている?」「充実している?」と聞いてしまうと、相手は「うまく」「充実」という言葉に縛られ、その期待に応えなくては、と思ってしまいます。特定の言葉をキーワードにしないで、「どう?」と、漠然と聞くほうが相手は言葉の選択肢が広がり、思いを語りやすくなるでしょう。また、上司の立場だと、ついつい、アドバイスを入れながら話してしまうことがあります。でも、相手の答えに自分の意見を乗せてしまうと、相手はそれ以上のことを話せなくなってしまいます。たとえ、相手の答えや発言がおかしいと思っても、何かを言い足すことは我慢して、「なぜ、そう思ったのか?」と、相手の考えを聞き出す方向に持っていきます。

 私の場合、問題点や悪い点を先に聞くパターンがよくあります。もちろん、良い話をいち早く聞きたいのですが、問題点や課題を先に聞き出すと、その後、スムーズに話してくれることが多いですね。