「分析手法オタクのデータサイエンティスト」の提案が、悲劇的な施策となる当然のワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

ビジネスシーンでは「PDCAサイクル」という概念がよく登場するが、データを通じて課題を深掘りする際には「IPDACサイクル」という思考法が役に立つはずだ。事業改善への近道となるデータ活用術を、専門家が解説する。本稿は、山本康正、松谷恵『外資系データサイエンティストの知的生産術 どこへ行っても通用する人になる超基本50』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです。

バーチャルな「実行」を繰り返し
事業の解像度を上げる

 データサイエンティストは、データを活用するプロである。

 おそらくここまでは多くの人の想像の範囲内でしょう。

 しかし、ビジネスの現場においては、「実験的思考×高速回転」の掛け合わせこそが、データサイエンスという実学の最大の強みなのです。

 データを収集・分析して、課題を解決または改善するという手法は、流れとしてはシンプルに見えますが、ビジネスの課題はそれ自体が単独で存在していることはまずありえません。つまり、1回限りの分析結果の数値だけで判断できるような状況はごく稀です。

 数値の裏側にある業界の前提や背景などを顧みながらデータを読み解いていくことになります。

 多くのビジネスパーソンにとっておそらく馴染み深いPDCAサイクルで考えると、わかりやすくなるかもしれません。

 データサイエンティストが実践しているデータをもとに事象を読み解く思考法は「実験的思考」とも呼べるもので、計画(Plan)→実行(Do)→検証(Check)→改善(Action)から成るPDCAサイクルとも一部重なっています。

 事業改善のためにPDCAサイクルを導入している企業はすでに多いでしょう。しかし、現実的にビジネスの現場においては実行(D)を簡単には実践できない難しさがあります。仮説をもとに何らかの施策を実際に打つには、資金も労力も時間もリスクも要します。

 ですが、データサイエンスを活用すれば、与えられた過去の状況下で取得されたデータを分析することで、リアルな実行(D)をすることなく、バーチャルな実行(D)による結果を考察することが可能になり、コスパもタイパも効率化します。現実には難しいバーチャルな実行(D)を幾通りも試すことにより、事業のポテンシャルを最大限に模索することも可能になります。

 もちろん実際に実行(D)するのと違い精度などに限界はありますが、コストやリスクを取ることなく課題や現状の解像度が上がるため、効率的に課題解決策を提案できるようになるはずです。

おなじみPDCAの強化版!
IPDACサイクルのフレームワーク

 このような実験的思考をぶれない軸とするために、「IPDACサイクル」というフレームワークを考えてみることにします。