セルフインタビューを通じて自分のこだわりを深く掘り下げることは、自己発見の鍵となる。哲学者である筆者が、ある漫画家のセルフインタビューを例に、具体的な質問や自己対話のコツを紹介する。本稿は、谷川嘉浩『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
「なぜいまそう感じているのか?」
セルフインタビューで自分の衝動に迫る
自分が何を特に楽しみ、何を特に避けたいと思っているかをつまびらかにすることができれば、自分の衝動に肉薄できる。そのためにできるのは、色々な質問を自分に投げかけることです。
仮にあなたが学生で、数学の時間に退屈を感じているとしましょう。その感覚に色々な角度から光を当てれば、自分がどのように偏っているのかについての解像度を上げることができるかもしれません。ここで大事なのは、やはり「それっぽい説明」に留めないことです。
「数学が退屈だ」「授業は嫌だ」といったざっくりした言葉で満足せずに、その感覚の奥にあるものを探索すること。その見つけ出し方を、ローズとオーガス(編集部注/心理学者のトッド・ローズとオギ・オーガス)は「判断ゲーム」と呼んでいます。
判断ゲームとは、雑誌やドキュメンタリーで見かけるようなインタビュアーになりきって、ロングインタビューをするかのように自分自身に話を聞くことです。とはいえ、「判断ゲーム」という文字列を見て、この内容を思い出すのは大変だと思うので、この記事中では「セルフインタビュー」と名づけ直しておきます。
セルフインタビューで大事なのは、スルーせずにこだわり続けることです。自分が何かの価値判断を行ったタイミングがあれば、それを逃さずに捕まえ、具体的な問いを無数に投げかけること。飽きるほど時間をかけ、もう十分だと思う以上にたくさん質問をしてください。
数学の授業に退屈している人を例にした質問案を一瞥しておきましょう。
「先生のダラダラとした話し言葉を聴いていると、苦痛に感じる?――本に書かれた言葉を読む方がいい?」
「他の学生が近くに居すぎて、気持ちが落ち着かない?――別の物理的な空間が必要?」
「長いこと黙っているのが苦しい?――他の人たちと意見を交わしたくてたまらなくなる?」
「事実とか方程式より、物語を聞きたい?」
自分が価値判断をした具体的な状況(=数学の授業)から離れないように、そして、自分の感覚(=退屈)の原因を安易に決めつけず、多角的な質問がなされています。これらの質問は、自分という人間の性質や成り立ちを調査し、吟味していくための問いになっているわけです。