『ベルリンうわの空』の漫画家
香山哲が自分に尋ねたこと

 学校では調べ学習や夏休みの課題で「話を聞いてこい」とインタビューをさせられ、会社ではユーザーインタビューをして……と、何かと話を聞くことを経験している人もいるかもしれません。

 しかし、読者の大半は、「インタビュー」という改まった形に苦手意識を持っている――とまでは言えずとも、強いて得意だとは思っていないでしょう。そういう人は、たとえ自分相手だとしても、どうすればうまく話を聞き出せるのだろうかと心配になるかもしれません。

『ベルリンうわの空』という作品で知られるようになった、漫画家の香山哲さんが参考になることを書いています。新しい漫画連載の準備プロセス自体を漫画化した『香山哲のプロジェクト発酵記』の中で、自分から話を聞き出すためのテクニックを語っているのです。

 新しい漫画連載を何のために始めるのかという方向性を明らかにするべく、香山さんは次のような質問を自分に投げかけています。

「あと何年ぐらい制作して、どんなものを作りたいですか?」
「1日をどんなふうに過ごしたいですか?色んな日があると思うので5パターンくらい教えてください」
「理想の制作が完成した時の気持ちをイメージして、色んな言葉で表現してみてください」
「もし1000万円と3年間が自由に使えたら、何を作りたいですか?」「日頃どんな人とどんな風に交流していたいですか?」

 こうした色々な角度からの質問は、質問案として参考になるかもしれません。

 そうはいっても、普段から考えたり思ったりすることを控えていると、うまく声が出てこないかもしれません。というのも、私たちは普段、「こうあるべき」「こうするもんでしょ」という世間的な発想や標準化されたシステムに想像力を乗っ取られていて、自分の欲望や考えを口に出すことを控えているところがあるからです。自分でそういう鎧を着ていると自覚していない場合も多いため、この抑制や控えを停止することは思いのほか困難です。

 香山さんは、「粗末な感じで自分を扱うと、どんどん自分を抑制してしま」い、その結果、「考えをひかえ」、「思うのをひかえ」てしまうことになると指摘しています。ローズとオーガスも同様の発言をしていることからも、自分の偏愛とその意味を知る上で、自分を粗末に扱わない(=自分を丁重に扱う)ことは確かに大切そうです。では、どうすれば自分を粗末に扱わずにいられるのでしょうか。