リーダーが全部やるのは不可能――「ルール設計」ではなく「文化づくり」

篠田 その「種まき」についても、ぜひお伺いしたいことがあります。それぞれのバックグラウンド共有に時間がかかるのはそのとおりなんですが、一方で、リーダーが一人で全部をやるのはかなり厳しいんじゃないかなと思います。

 たとえばメンバーが5、6人いたとして、リーダーがその全員とまんべんなく対話しないといけないというのは、私としてはやはり不自然だなと感じてしまうところがあって。というのも、リーダーも人間ですから、相性の問題があるじゃないですか。また、リーダーとメンバーの関係性の「いい/悪い」だけでなく、「近い/遠い」みたいなものも関係するかもしれません。あまりにも関係性が近い相手には、私たちはわざわざ背景とか価値観とかを伝えなくなる傾向がありますから。もっと言うと、聞かれる側も自分の価値観をスムーズに言語化できるとは限りませんよね。そうなると聞く側のリーダーにも、一定のスキルや忍耐が求められるようにも思います。

 …で、そういう事情を踏まえると、リーダーがメンバーの全員の話を聞く「種まき」をみずから設計していくのって、あまりにも負担が大きすぎるんじゃないかなと思うんです。

村瀬 そうですね。これを仕組みとして設計をするのはおそらく無理だと思います。それなりに時間的なゆとりがある3、4人のチームであれば、そういうこともできなくもないのかもしれませんが、一定規模の部署やプロジェクトチームでは現実的ではないです。

 じゃあ諦めるしかないかというとそんなこともなくて、制度レベルで設計するのではなく、「背景の共有」が起こるような「文化」をつくるという方向に、発想を切り替える必要があると思います。リーダーだけが一人で必死に話を聞いて回るのではなく、職場のメンバーそれぞれがいろんな場所でお互いの話を聞くような雰囲気だったり風土を形成していくわけです。

 いろんなところでみんなが話を聞き合うようになると、結果的に大事な情報が大事な人に伝わる。少なくとも、伝わる可能性が高くなる。実際のところ、そういう地道なやり方しかないと思うんですよ。

篠田 なるほど。「聞く」の頻度を増やしていけば、結果として、大事なことが組織内に伝わっていく確率も高まる――という考え方ですね。

村瀬 はい。もちろん、仕組みが設計されているわけではないので、すべての背景情報が必ずきちんと伝わるわけではないでしょう。でも、リーダーだけに「聞く」を押しつけるよりは、こちらのほうが現実的なやり方だと思います。

篠田 いやー、本当にそうですよね。「仕組みでなんとかしようとせず、文化をつくる」という視点は、すでに「聞く」を実践しているリーダーにとっても、意外と盲点なんじゃないかと思います。

 以前、女性のリーダーたちが集まる場に出かけていったら、彼女たちの大部分が「日頃からかなり意識して、部下の話を聞くようにしている」と語っていたんですね。でもその一方で、彼女たちは「聞く」ことにものすごく疲弊していまして…。メンバーの話に耳を傾けているうちに、どんどん時間が溶けてしまい、あっという間に一日が終わってしまうとこぼしていました。

「聞く」を通じたリーダーシップを発揮している彼女たちのような人は、自分で全部聞こうとするだけではなくて、メンバー間に「聞く」が生まれる風土を育むことを意識していくといいんだろうなと思いました。

村瀬 そうですね。チームの中で模範的行動を示して、チーム全体の「行動」をつくっていくことは、リーダーの大事な役割です。ですが同時に、お互いの意見や小さな声にもちゃんと向き合う「文化」をつくることも、組織をマネージする人に求められている仕事だということを忘れてはいけないと思います。

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