文章を書くことを仕事にしたことで、大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。
他人のほうが、あなたのことをよくわかっているかもしれない
案外、自分ではわからなかったりするものに、「得意なこと」があります。自分の得意なことは、自分でわかるだろうと思っている人がほとんどですが、実はそんなことはない。自分のことは、意外に自分ではわからないのです。
だから、営業が苦手だと思っていた人が、いきなり営業で大きな実績を出したり、クリエイティブな世界は自分にはあり得ないと思っていた人が、企画のセクションでヒットを飛ばしたりする。そういうことはよくあります。
電通から独立して広告企画会社のタグボートを作った岡康道さんは、運動部出身で営業職を選びます。ところがまったく自分に合わなかった。それで転局試験を受けてクリエイティブ職に異動。才能が花開くのです。
ちなみに岡さんの就活は、給与の高い会社から順番に受けたと言われていました。動機が不純だったと笑われていましたが。
得意が見えなかったのは私自身もそうです。広告を作ってみたかっただけで、自分の「得意なこと」はまったく自覚していませんでした。ちょっとミーハーでファッション好き、もしかしたら企画とか立てるのにも向いているかも、くらいの感覚でした。
ところが、書く仕事をやってみてわかったのは、コミュニケーション力の重要性でした。といっても、とりわけ話すことや聞くことが好きだったわけでも得意だったわけでもありません。どちらかというと、特にフォーマルな場でのコミュニケーションは苦手意識がありました。
しかし、私には「知りたい」という猛烈な知的好奇心があったのです。これは間違いなく「得意なこと」だったのだと思います。取材に出向くと、次々に知りたいことが生まれ、どんどん質問を繰り出している自分がいました。
良い問いかけができれば、良い答えが返ってきます。良い情報が入ってくれば、それだけ広告制作や文章づくりには活きてくるのです。こんなことは当初まったく自覚はしていませんでした。
また、「自分が知ったことを伝えたい」という猛烈なモチベーション。これも「得意なこと」だったのだと思います。そもそもこれは知的好奇心の根底にあるものだと思いますが、ミーハーですから人が知らないことを知りたくてたまらないのです。
そして、ひとたび自分が知れば、外に出してもいい情報なら、強烈に伝えたくなる。しかも、順序立てて、わかりやすく人に伝えたいという意識があったことも大きいと思います。
こういうことを20代の私が自覚できていたのかといえば、まったくそうではありません。フリーランスで仕事をするようになって、周囲の人たちからそう言われるようになったのです。そこで初めて、自分の得意が自覚できたのです。
人は、案外よく人を見ているものです。実は周囲の人たちのほうが、あなたのことをよくわかっている可能性がある。あなたの得意がどこにあるのか、あなたの知らない姿を知っている可能性がある。ぜひ、聞いてみるといいと思います。
就活セミナーのカリキュラムにもあるようですが、友人に「他己紹介」をし合うのもいいでしょう。
※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。