「身体能力を向上させるために必要なのは『トレーニング』『リカバリー』『栄養』の3つのメソッドです」と語るのは、大坂なおみや錦織圭ら数々の選手を世界トップレベルに導いたフィジカル・トレーナー中村豊。この3つを適切に行えば、誰もが身心を健全に整えられるとして実践方法をまとめたのが『世界最高のフィジカル・マネジメント』です。本連載では同書からさまざまなメソッドを紹介していきます。
今回は「水」について。人間の身体の約60%は水でできています。そのため、どのように水分を摂るかによって、身体に大きな影響が現れます。水を正しく飲めば、新陳代謝が促進され、若々しく健康な身体を保てるのです。

水を正しく飲めば、新陳代謝が促進され、若々しく健康な身体を保てるPhoto: Adobe Stock

水分コントロールでカラダを整える

 水は人間の身体の60%近くを占める、最大の成分です。

 水分が不足すると、人間のホルモンバランスは乱れます。さらに運動中に水分が不足すると、筋肉の疲労によって分泌される乳酸を押し流すことができず、老廃物も排出できない状態に陥ります。これが筋肉痛、関節痛、慢性の腰痛の原因になるのです。

 口から入った水は胃腸で吸収され血管を通して血液として全身を流れます。組織間の水分を保持し、身体の機能を整え、老廃物を体外へ放出してくれます。また、各細胞に水分が行き渡ることで代謝が良くなるのです。

 水は飲みすぎても害はありません。トイレに行く回数は増えるかもしれませんが、水分が足りないよりは多い方が良いのです。水を飲みすぎるとむくんでしまうという場合は、身体に何らかの不調がある可能性があります。

 また加齢と共に意識して水分を摂る必要があります。なぜなら老化するとノドの渇きを感じにくくなり、慢性的な水分不足になりがちだからです。渇きを感じてから水分を摂るのでは遅いのです。渇きという感覚は水分不足を警告するサインだからです。血液に水分が不足すると血管にも負担をかけることになってしまいます。

 プロスポーツにおいても水分摂取は重要です。テニスプレーヤーはコートチェンジの際はまず水分を補給し、サッカーでもプレーの中断時に選手は必ず水分を補給します。プレー中の水分の枯渇は痙攣につながるためです。

 僕が指導したテニスプレーヤーのマリア・シャラポワの水分摂取法は徹底していました。1日のうちでどのタイミングでどれだけの分量を飲むか、常にコントロールしていたのです。練習中は必ず15分毎にペットボトル(500ml)半分の水を飲みます。練習に没頭してそのタイミングを逃さないよう、水分補給の時間管理はトレーナーの僕に任されていました。シャラポワの若々しさと美しさは、水分摂取に秘密があったとも言えるでしょう。

プロのテニスプレーヤーはコートチェンジの際は必ず水分を補給する水分コントロールを徹底して行うマリア・シャラポワ(左)と筆者(写真:筆者提供)

正しく水を飲むための7つのルール

 水分を摂る際には胃腸に負担がかかるので、冷やさない方がいいでしょう。細胞に吸収されやすくするため常温に塩やレモンを加えるのがお勧めです。

 体内水は1日に2リットル近く入れ替わります。1日の摂取量の目安は体重×30mlです。体重60kgの方であれば、1.8リットル必要です。

 体重の2%の水分を失うとノドの渇きを感じ、運動能力の低下が始まります。体重の3%を失うと強いノドの渇きと、さらに食欲不振が起こります。そして4~5%失うと脱水症状が現れてしまいます。

 水を正しく飲んで身体を瑞々しく保つためには、次の7つのルールを参考にしてください。

1.起床時にコップ1杯水を飲む。睡眠中に失った水分を補給し、胃腸を目覚めさせるのです。

2.1日に摂るべき水分量を100とした場合、「起床から昼」「昼から夕食」「夕食から就寝」それぞれで25対40対35くらいの割合で水分を摂る。毎回正確に測る必要はありませんが、思っているよりも水分を摂れていないことが多いものです。1日2リットル必要であれば、午前中500ml、午後に800ml、夕食後に700mlと意識して摂るようにすれば自然にリズムができてきます。

3.常温の水を飲む。胃腸をいたわるためです(真夏なら身体を冷やす必要があるので、冷水でもOK)。

4.日中はこまめに水分補給。口やノドが潤うとウィルス等を遮断できるメリットもあります。

5.食事の前に、必ず水分を摂る。食前に胃腸を慣らすためです。

6.入浴前、入浴後にコップ1杯の水分を摂る。汗が出るので老廃物の排出を促進するデトックス効果があります。

7.寝る直前には水を飲みすぎない。夜中に尿意を催すと睡眠の質が低下してしまいます。

 以上7つのルールを意識して水分を摂るようにしてみてください。あなたの身体は若々しく健康になるはずです。

(本原稿は中村豊『世界最高のフィジカル・マネジメント』から一部を抜粋・編集して掲載しています)

中村 豊(なかむら・ゆたか)
ストレングス&コンディショニングコーチ
1972年生まれ。高校卒業後アメリカにテニス留学。スポーツトレーナーという職業に興味を持ち、カリフォルニア州チャップマン大学で運動生理学、スポーツサイエンスを学ぶ。1998年、サドルブルック・テニスアカデミーのトレーニングコーチに就任。2000年、女子テニスプレーヤー、ジェニファー・カプリアティのトレーナーに就任し、翌年世界No.1に導く。2004年よりIMGアカデミーに所属し、錦織圭のトレーニングを14歳から20歳まで受け持つ。2011年よりマリア・シャラポワの専属トレーナーに就任。シャラポワの黄金期を7年間支える。2020年6月、大坂なおみの専属トレーナーに就任。わずか2ヵ月でスランプに陥っていた大坂を再生させ、全米、全豪と立て続けのメジャータイトル奪取に貢献。世界のプロスポーツ界で最も注目されるフィジカルトレーナーのひとり。トレーナーとしての豊富な経験と知識を生かし、一般の人に向けた入門書『世界最高のフィジカル・マネジメント』を上梓した。