錦織圭、マリア・シャラポワ、大坂なおみ、ネリー・コルダ……指導した数々の選手を世界トップレベルに導いてきたトレーナー界のカリスマ、中村豊。彼に指導を受けた選手たちは、アスリートとして大幅なステップアップを遂げています。
中村はトレーニングによってのみ身体能力が向上するわけではなく、必要なのは「トレーニング」「リカバリー」「栄養」の3つのメソッドだと語ります。そして、この3つを適切に行えば、一般の人でも身心が健全に整い、若さを持続できると主張するのです。その実践方法を分かりやすく具体的にまとめたのが、中村の初著書『世界最高のフィジカル・マネジメント』です。本連載では同書から「世界トップの選手に対する指導法」や「そこから導き出した誰もが健全な身心を獲得できるメソッド」をお伝えしていきます。
中村はシャラポワの専属トレーナーとしての日々を送りながらも、ツアーの合間やオフシーズンには、テニス以外のアスリートの育成に積極的に関わっていました。そんな中で、以前から知り合いの元テニスのトッププレーヤー、ピーター・コルダから、プロゴルファーとして活躍中の二人の娘ジェシカ・コルダとネリー・コルダの指導を頼まれます。タイガー・ウッズの影響で、ゴルフ界でもフィジカル・トレーニングの重要性が認識され始めたのです。
フィジカル・トレーニングが
ゴルフを別次元のスポーツに変えた
シャラポワとの契約では、テニス以外の競技者への指導は容認されていました。そこで、知人の元トップテニスプレーヤー、ピーター・コルダに頼まれ、プロゴルファーである彼の娘のジェシカ、ネリー姉妹を2015年から見ることになったのです。別の競技のアスリートと仕事ができたのは貴重な体験でした。
父コルダは1998年の全豪オープンで優勝し、世界2位まで登り詰めた選手でした。彼には3人の子どもがいて、上2人の姉妹がゴルフ選手、下の弟はテニスプレーヤーとして活躍しています。
コルダからは、「ユタカにはトレーナーとして、娘達のアスリートの基礎を作って欲しい」と頼まれました。コルダは、「どのレベルであっても、コーチとトレーナーは切り離せない関係」という考えを持っていました。
当時のプロゴルファーの練習は、ショットの精度を上げることに費やされ、基礎トレーニングはさほど重視されていませんでした。そこにタイガー・ウッズが登場し、ゴルフ界でもフィジカルを鍛えるという意識が高まっていったのです。しかし、女子ゴルフにおいては、まだそこまで意識の変革はありませんでした。コルダは、「最近ようやく女子ゴルフ界にもその波が浸透してきた。しかし、テニス界に比べるとまだまだフィジカルに対する意識が低い。自分の娘達にはまだゴルフ界には浸透していないトレーニングを取り入れ、より早くアスリートゴルファーに育て上げたい」という希望を持っていたのです。
フィジカル・マネジメントによって
ゴルフ界に革命を起こしたコルダ姉妹
コルダの考え方で僕が特に共感できた部分は、彼が常に変化と刺激を求めていたことです。自分のネットワークを最大限に活かし、人材と情報の収集に努めていました。コルダの現役時代と比べ現代のスポーツ科学は明らかに進歩しています。彼はそこに着目し、フィジカルに関わる最新のトレーニング方法や、リカバリーや睡眠、食生活といった要素を、数%でも向上させることができれば、アスリートの可能性はより広がると考えていたのです。これはまさに僕のフィジカル・マネジメントの考え方と全く重なるものでした。
フィジカルの強化を行ったことで、コルダ姉妹は女子ゴルフ界でも革命的なプレーヤーとして認知されるようになりました。そして姉妹でツアー優勝や東京五輪金メダル(ネリー・コルダ)という偉業を成し遂げたのです。ちょうどその頃から、あらゆるスポーツにアスリート意識が芽生え始めたのだと思います。
(本原稿は中村豊『世界最高のフィジカル・マネジメント』から一部を抜粋・編集して掲載しています)