ある1つのことに集中してばかりだと、その部分の脳が次第に疲弊していき、最終的に細胞の死につながってしまうことも覚えておきたい。

 人の身体のエネルギーは全てATP(adenosinetri-phosphateアデノシン三リン酸)という物質を介してやり取りされる。ATPを作る時に必要なエネルギーが放出されると、アデノシンという物質に変化する。つまり、活発に働いた脳部位にはアデノシンがたくさん蓄積することになる。

 この蓄積が、「飽きる」あるいは「疲れる」といった反応を引き起こすわけだが、集中力信仰が強ければ「ここで休んではいけない」「これくらい集中できなければ」という思考となり、十分な休養を取ることができない。その行き着く先は、ATPの枯渇と老廃物や活性酸素の蓄積であり、これらはやがて脳細胞の死につながり最終的に脳萎縮・認知症を来すということになりかねない。

 アデノシンは強力な睡眠誘導物質であり、それを押して活動を続けるということは、強力な代謝負荷をかけることになるからだ。

 また、何かに集中する時には、覚醒を促す物質「ノルアドレナリン」が、脳幹にある青斑核(せいはんかく)という部位から分泌される。ノルアドレナリンは、目的をもって集中力を発揮する時に必須な物質であり、短期的には神経細胞を活性化し、神経保護的に働く。

 しかし、活性化を促す物質は細胞の代謝を促進するため、長期になると負荷が大きくなりすぎる。競馬で、騎手が最初からムチを入れていたら、競走馬は途中で疲れ果てて勝つことはできないだろう。神経細胞にとってのムチは、長期にわたればむしろ毒性となり、神経細胞を破壊してしまうのである。

 人間がストレスを受けた時に分泌されるホルモン、コルチゾールもまた、長期にわたると神経毒性を発揮することが知られている。ストレスに対応するために人間は神経を研ぎ澄まし、環境の変化を敏感に察知しようとするのだが、これもまた長時間になれば、集中系の神経細胞やグリア細胞に大きな負担をかけてしまうのだ。