利他的行動と利己的行動をする個体
繁殖集団を形成して子孫を残す

 この進化を別の見方でも見てみよう。ここでも、他個体に対して自らコストを払って利他行動をする個体と、利他行動を享受するが、自らはしない利己的個体を想定してみる(図表3-6)。

図表3-6:デーム内集団選択による利他行動の進化同書より転載 拡大画像表示

 説明の簡略化のために、利他行動を引き起こすアレルをA、利己的行動を引き起こすアレルをaとして、利他行動をする個体を灰色、利己的行動をする個体を白としている。

 生物個体はコロニーや群れなど、密接に個体同士が競争したり、助け合ったりする小集団で生活している。一方で、個体はその小集団以外の個体とも交配し、繁殖する。このようなお互いに交配し合う繁殖集団のことをデームと呼んでいる。

 ここで以下のような生物集団を考えてみよう。

小集団1:利己的な個体の頻度が高い集団。競争が激しく集団の個体数は低下。

小集団2:利己的な個体と利他的な個体が両方いる集団。利他的な個体から利益を享受するので利己的な個体のほうが適応度が高く、小集団内でその頻度を増加させる。しかし、利他的な個体が少なくなるために、集団の個体数は減少する。

小集団3:利他的な個体の頻度が高い集団。お互いに助け合うことで、生存率が増加し、集団の個体数は低下しない。

 そして、各集団で生き残った個体は小集団外の個体と交配して次世代の子どもを残す。

 このとき、次世代のデームでAアレルとaアレルの遺伝子頻度を見てみると、利他的な行動をするAアレルの頻度が増加しているのが分かるだろう(0.5→0.67)。

 そして、次世代では、Aアレルの頻度が増加した状況で、小集団に分かれて相互作用をすることになる。このプロセスによって、利他行動を発現するAアレルの頻度はしだいに増加していくのである。

 同じ小集団のなかでは、利他的個体は利己的個体に比べて適応度が低くなるので、利己的個体が選択される(個体選択)。

 しかし、集団内での利他的個体の頻度(集団の性質)が高いと、小集団の個体数を多く維持できる。それによって、小集団間での集団の性質(利他的個体の頻度と集団の個体数)の違いを生じさせ、利他行動を発現するアレルの頻度は増加する。

 つまり、個体間の違いではなく、小集団間の違いが利他的個体を進化させているといえる。

 このような自然選択のプロセスをデーム内集団選択と呼んでいる。

 ここで集団選択の「集団」が指すのは、個体がお互いに相互作用している小集団のことであり、交配・繁殖は小集団を超えて大きな繁殖集団(デーム)で起こる。