メスだけの単為生殖で増えるアミメアリ
血縁集団間の選択で利他行動は進化する

 アミメアリの集団選択は、メスだけで単為生殖をして増えている。そのため、コロニー集団内で、共同繁殖のための相互作用が行われていることになる。

 この集団は繁殖集団(デーム)になるので、デーム内集団選択に対して、デーム間集団選択と呼ぶ場合もある。

 この集団選択が働くために重要な条件は、小集団の間で利他行動を発現するアレルの頻度が充分に異なっていることと、集団の適応度(個体数や増加率など)に違いがあることである。

 たとえば、すべての集団が同じ頻度でAアレルとaアレルをもっていると、必ずAアレルの頻度は集団内で減少することになり、利他行動は進化できない。

 実は、このデーム内集団選択は、血縁選択と同じことを異なる表現で示しているにすぎない。

 ここでの小集団は家族集団といった血縁集団を想定できる。血縁個体が小集団を形成すると、利他行動を発現するアレルをもっている個体が小集団内にいる場合、同じ集団内の他個体も同様に同じアレルをもっている可能性が高い。

 これにより、図表3-6のような状況が生まれ、利他行動を発現するアレルは頻度を増やしていける。

図表3-6:デーム内集団選択による利他行動の進化同書より転載 拡大画像表示

 また、相互作用する相手が血縁個体かどうかを識別できる場合は、空間的に集まって作られるような集団でなくてもこのプロセスは働く。

 つまり、血縁者同士で相互作用する集団を、図表3-6の小集団とみなすことができる。

 血縁選択は、血縁集団間の選択というデーム内集団選択の一種とみなすことができるのだ。実際に、血縁選択と集団選択が同じプロセスであるということは数学的にも証明されている。

 集団選択は限られた条件でのみ可能だが、血縁集団間の選択による利他行動の進化、つまりはデーム内集団選択が働く条件は、多くの生物で満たされているのだ。

利他行動は利己的な遺伝子が要因?
利他行動を発現するアレルの重要性

 さて、ここであらためて血縁選択を表す比喩として、リチャード・ドーキンスの利己的な遺伝子という言葉を考えてみよう。

 この場合、「個体の利他行動は個体にとって不利だが、利他行動を発現する遺伝子にとって有利なので、遺伝子が自分のコピーを残すために個体に利他行動をとらせている」という表現が使われる。