就活の“形骸化したルール”をなくせばよいのか?

 日本で就職・採用活動のルールが生まれたのはいまから100年近くも前のことだ。第二次世界大戦をはさんで、戦後すぐには政府主導で「就職協定」ができた。その後、就職協定は内容の見直しや廃止と復活など紆余曲折を経て、現在の枠組みは、政府が経済団体等に要請するというかたちをとっている。昨年度(2023年度)からは経団連と全国の国公私立大学のトップで構成する「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」がまとめた新しいインターンシップ制度もスタートした。これにより、「インターンシップ」という名称の使い方は整理されたが、実質的には、1日だけの会社説明会である「オープンカンパニー」などで企業と学生が接触し、3年生の秋頃から、選考と内々定出しが行われている。

首藤 企業側には、とにかく早く内定者を確保したいというニーズがあります。各企業が採用活動を早期化させていることはミクロレベルでは合理的かもしれませんが、その結果、「学生生活での学びによって学生が成長する機会」を奪うというマクロレベルで不合理が発生しています。経済学でいう「合成の誤謬」ではないでしょうか。

 一方、「守られないルールならなくしてしまえばいいのではないか?」という意見もありますが、私は、そうは思いません。2年生のときから就活に向けたインターンシップに参加する学生もいるなか、ルールを完全に撤廃すると、それこそ歯止めが効かなくなり、学生は大学に入学したらすぐに就職活動を始め、企業と接触する……といったことになりかねません。大学生が学生生活での学びを通して成長できる環境を整えることは、日本の社会における人材育成を考えるうえで不可欠です。今後も、政府と大学、経団連などの経済団体で一定の合意を形成していくべきだと、私は考えます。

 就職・採用活動の早期化と長期化は、多くの企業にとっても好ましいことではないだろう。たとえば、早めに内々定をもらっても本命企業の結果が出るまで就職活動を続ける学生がいれば、企業側は、こまめな状況確認や引き留めのための施策が必要となる。内々定を複数持つ学生は迷い続け、なかには内定式まで決められない者もいるという。学生と早くに接触し、内々定を早期に出すことが、必ずしも人材確保につながるとは限らないのだ。

 また、「産学協議会」の定義による「インターンシップ(タイプ3)」を行う場合、インターンシップにエントリーして落とされた学生はその企業に対する興味を失い、本選考にエントリーしなくなるケースも少なくない。タイプ3の「インターンシップ」は企業側の負担が重く、実際の採用計画よりも少ない人数しか受け入れられないケースがほとんどであり、「インターンシップ」をせっかく用意しても、自社に関心のある学生を遠ざける結果になったりもする。

首藤 「インターンシップ」にしろ、本選考にしろ、学生がエントリーシート(ES)を書くとき、自分を表現できる経験を持っているかどうかで二極化しているように感じます。ESに書く経験としては、大学での勉強以外にも、友人や知人との交流、正課外でのボランティア活動、アルバイトなど、さまざまなものがあります。就活において、そうした経験が自分をアピールする大切なバックグラウンドになるのです。しかし、就活の早期化・長期化でそれらの体験が希薄になると、学生自身が納得できる就活を行えなくなる可能性が高まります。それぞれの学生が大学での学修や正課外での活動を通して成長した過程こそ、企業側は知りたいはずですが……。