アフター・コロナの景気回復と人手不足を背景に、就活市場が「売り手優位」になっている。文部科学省・厚生労働省の発表によると、24卒(2024年3月卒の学生)の就職率は4月1日時点で98.1%となり、過去最高を記録した。また、リクルート就職みらい研究所の調査では、25卒(2025年3月卒の学生)の就職内定率は5月1日時点ですでに72.4%と前年を7.3ポイント上回っている。そうした一方で、就職活動の早期化と長期化による弊害も目立ち始めている。今回は、立教大学経済学部教授で同大学キャリアセンター部長の首藤若菜さんに、大学側から見た就活市場の実態と課題、キャリアへの考え方、企業内の人材定着の必要性などの話を伺った。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)
“3年生”は大学での「学び」において、重要な時期
現在、新卒の就職・採用活動のスケジュールについては、企業による広報(求人情報の掲載やエントリーの受付など)は卒業年度に入る直前の3月1日以降、採用選考(面接など)は卒業年度の6月1日以降、正式な内定は同10月1日以降とするルールを、政府と就職問題懇談会(国公私立大学等の代表で構成)が経済団体・産業団体等に要請している。しかし、このルールは形骸化していると言わざるを得ない。外資系やIT系企業では以前から長期インターンシップや通年採用など独自のスケジュールで採用活動を行っており、国内企業でも、大手、中小を問わず、いまやさまざまなかたちで学生と早期に接触を始め、内々定を出すタイミングも早まっている。
背景にあるのは、短期的にはアフター・コロナにおける景気回復、中・長期的には人口減少にともなう労働力不足を踏まえた企業側の旺盛な採用意欲だ。こうした状況は就職を目指す学生にとって有利なはずだが、むしろ、首藤教授は警鐘を鳴らす。
首藤 企業と学生の接触開始や内々定のタイミングが「早期化」しているのと同時に、学生が就職活動をなかなか終わらせることのできない「長期化」も顕著になっています。多くの学生は学部3年の夏休み前から会社説明会やインターンシップに参加し始めますが、最終的には、4年生の6月から面接を行う企業の結果が出るまで、1年以上にわたって就職活動を続ける学生も少なくありません。その結果、学業や学生生活との両立が難しくなっているのです。
私のゼミでも、3年生の前期から就活のために授業を休む学生が目立つようになります。本音では、学期中はインターンシップにできるだけ行かないでほしいですが、「(インターンシップに参加しないと)早期選考の対象にならない」と言われれば、教員の立場として悩ましいです。
大学(キャリアセンター)側も、「本格的な就職活動は4年生になる直前の3月からでいい」「インターンシップは、授業のない、夏休みや冬休みに参加してほしい」と提言したいところですが、ルールを公然と破る企業が少なくないなか、それに合わせないと学生が不利益を被るかもしれないというジレンマがあります。
そもそも、3年生は大学での「学び」においてとても重要な時期です。ゼミなど専門科目の学びを深めたり、サークルや部活動で中心的な役割を果たしたり、留学に行く学生も多い時期です。そうした経験を通して、学生は目に見えて成長します。就職活動に時間や関心が大幅に割かれるとなると、「大学での人材育成がなされないのでは?」という不安を私は覚えます。
首藤若菜 (しゅとう わかな)
立教大学 キャリアセンター部長/経済学部教授
東京都生まれ。1996年、大妻女子大学社会情報学部卒。2002年、「ブルーカラー職種における男女混合職化の研究」で博士(学術)号取得。2006年に山形大学助教授、2010年に日本女子大学准教授、2011年からの立教大学経済学部准教授を経て、2018年に同大学教授となる。研究テーマは労使関係、女性労働。著書に『統合される男女の職場』 (勁草書房)、『グローバル化のなかの労使関係 自動車産業の国際的再編への戦略』 (ミネルヴァ書房)、『物流危機は終わらない 暮らしを支える労働のゆくえ』(岩波書店)、『雇用か賃金か 日本の選択』(筑摩書房)などがある。『グローバル化のなかの労使関係』は2017年に労働関係図書優秀賞、第24回社会政策学会奨励賞を受賞。