「小粒ダイヤのソリテール」は
売る側の「都合」で作られた

 みなさんは、いつの間にか決まりごとのように、「婚約指輪は給料の3カ月分」だと思っていませんか?

 宝石店に婚約指輪を買いに行くと、ショーケースに並んでいるのは、ほぼ「小粒ダイヤのソリテール(石を1つだけセットした指輪)」です。

 そもそも「宝石は身に着けるもの」として買うべきなのに、同じようなセットばかり並んでいるのを見て、「給料の3カ月分で買える」ということを基準にそうした小粒ダイヤのソリテールを選んでしまったとしても無理からぬことかもしれません。カップルで選んだとしても、状況は同じでしょう。

 しかし、そのような慣行やルールは元来、まったく存在しません。これは売る側の「都合」で作られた販売スタイルが常態化し、まるで決まり事であるかのようになっているだけです。

 大枚をはたいて買った婚約指輪が「タンスの肥やし」になってしまった殿方たちはもしかしたら「駄物を買わされたにちがいない。宝石商はインチキだ」と苦々しく思っているかもしれません。

 これには、さすがの私も反論のしようがありません。実際、そのとおりなのですから(もちろん、法を犯しているわけでもなく、そこにインチキや悪意があるわけでもないのですが)。

 もっとも、小売店や販売員だけに罪をなすりつけるわけにはいきません。私が考えるに、彼らは、たんに宝石に関して無知であるがゆえに結果としてそのような商売に加担してしまっているのでしょう。

 責められるべきは、そういう売り方を広めた“親玉”ですが、じつは私自身もまったくの無関係とはいえません。

世界最大のダイヤモンド卸売会社
「デビアス」の小粒ダイヤ戦略

 世界のダイヤモンド市場には強大なプレーヤーが存在します。デビアスです。

 改めて説明すると、同社はイギリスに本社を置く、世界最大のダイヤモンド採掘・流通・卸売会社です。現在ではその影響力もだいぶ薄れてはきましたが、かつてはダイヤモンド・マーケットを牛耳っていたといっても過言ではありません。支配力が強かったからこそ、「産地の雇用維持」や「ダイヤモンド価格の安定」に貢献できたとも言えますが、弊害があったこともまた事実です。