宝石店に婚約指輪を買いに行くと、ショーケースに並んでいるのは、ほぼ「小粒ダイヤのソリテール(石を1つだけセットした指輪)」だ。そして、多くの人が「給料の3カ月分」の商品を購入する。しかし、そのような慣行やルールは元来、まったく存在しない。これは売る側の「都合」で展開したプロモーションに過ぎないのだ。誰も教えてくれない宝石の裏表の話を、「宝石界のレジェンド」がタブーなく伝授。宝石の楽しみ方から資産価値、店で買うときの基準までわかりやすく教える。※本稿は、諏訪恭一『知っている人は得をしている 宝石の価値』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。
なぜ宝石は「タンスの肥やし」
になってしまうのか
普段はほとんど宝石に縁のない人でも、婚約や結婚という人生の節目にあっては、宝石店に足を運ばれることと思います。愛する人へのプレゼントを探し求めて出向くこともあるでしょう。なかには男性で、自身を演出するアイテムとして入手するというおしゃれな人もいるかもしれません。
女性の場合、安価なアクセサリーではなくワンランク上のジュエリーを求める方は多いですし、お守りや運気上昇のアイテムとして誕生石を身に着ける人もいます。なにより宝石好きの方は大勢いて、男性よりはるかに多くの方が宝石店を訪れています。
いずれにせよ、皆さんが求めているのは「宝石を素材として仕立てられた装身具」です。事実、宝石店のショーケースのなかでキラキラと輝いているのはリングやネックレス、イヤリングなどがほとんどです。
この事実に今さらながらに気づき、私は最近になって「宝石」のとらえ方を改めました。宝石は「石」そのものを指すのではなく、「宝石を使った装身具」としてとらえるのが妥当だろうということです。
よく考えてみれば当然なのですが、どんなに美しい宝石の「裸石」を持っていたところで、身に着けることができなければ何の意味もありません。
それなのになぜ、ときに宝石は「タンスの肥やし」になってしまうのでしょうか。
その理由を解説していきましょう。
「当たり前すぎて逆に意識が及ばない」というのはよくあること。宝石選びに失敗する最大の原因は、まさにそこにあります。
その典型が婚約指輪です。結婚にともなって贈られる婚約指輪は、男性が愛する女性と契りを結ぶ決意の“証”。本来とても大事なものですが、多くの場合、男性が贈ってから数年も経たずに「タンスの肥やし」になっているのが現実です。
その大きな原因は、日常的に身に着けたいと思わないようなものを買わされてしまったことにあります。