私が0.2~0.3カラットのダイヤモンドをセットしたソリテールを否定するのは、「バランスが悪く美しさに欠ける」からです。そのサイズの小粒のダイヤモンドは、1粒セットしたところであまり輝いているようには見えず、研磨されたダイヤモンドの美しさの引き出し方として「適切」ではありません。「美しさ」が宝石の資産性を担保する重要な要素の1つであることを考えれば、これは致命的な欠点です。貴金属買取店に持ち込んでも、それこそ地金の値段にしかならないでしょう。

 ここで思い出していただきたいのが、宝石の定義の1つ「潜在力のある原石を見つけ、人が美しさを引き出した存在」。ここに宝石の美しさと資産価値を考えるうえで重要なポイントが含まれています。

どんなに美しい宝石でも
構想次第では残念な結果に

 宝石の善し悪しは、「構想」「素材」「仕立て」という3つの要素によって決まります。そのうち、最も大事なものが「構想」だといっても過言ではありません。

 構想とは、いわば「設計図」や「レシピ」のようなもの。どんな宝石種を主石(リングの中心となる大きな石)にするのか、あるいはどんなカットとサイズを組み合わせ、どんなスタイルの装身具に仕立てるのか。これを決定することです。

 構想がきちんと練られていないと、どんなに美しい宝石を使ったところで、そのポテンシャルを十分に引き出せていない装身具が出来上がってしまいます。「小粒ダイヤのソリテール」というのは、小粒ダイヤの潜在力をまったく引き出せていない「悪い構想」の典型でしょう。反対に構想が素晴らしければ、宝石の持ち味が引き出され、その美しさが見事に開花するのです。

 同時に、構想の実現にはていねいな「仕立て」が欠かせません。仕立てが雑だと、つくりの粗さが全体の美しさを損ねたり、すぐに宝石が地金から外れたりします。

 いくら生地やデザインが良くても、縫製が雑で糸がほつれているシャツを着たいとは思わないでしょう。食材やレシピが完璧でも、ふだん料理をしない人が調理したところで、すばらしい料理にはなりません。それと同じです。

 宝石で最も大事なのは「細部に宿った美しさ」です。その美しさを引き出せるかどうかは、「構想と仕立て」の善し悪しにかかっています。